新人療法士の方々にとって、具体的な目標設定は臨床での悩みの1つになりやすいかと思います。
そこで、今回は「入院患者の目標設定」で意識しておきたいポイントについてお話しします。
リハビリテーションにおける目標設定は、治療の方向性を定める羅針盤のようなものです。
特に入院中の患者さんにとっては、退院後の生活を見据えた支援が求められるため、目標設定が適切さによって、理学療法・作業療法・言語聴覚療法の質も大きく変わってきます。
私は臨床において、「患者本人の要望」と「家族の要望」のバランスをとることを意識しています。
新人の頃は「医療的な視点での目標設定」が中心になりがちでしたが、それだけでは患者さんの「生きがい」や「日常の意味ある作業」に繋がらないと感じたことが多々ありました。
たとえば、ある高齢の患者さんが「畑仕事に戻りたい」と言ったとします。
医療者の視点だけで「それは難しい」と判断してしまうと、治療へのモチベーションは低下することがあります。
ここで大切なのは、「どの程度なら実現できるか」「代替手段はないか」と柔軟に考えることです。
座ったまま土いじりを楽しむ方法があるかもしれませんし、家庭菜園から段階的に進めるといった方法も考えられます。
一方で、「一人でトイレに行けるようになってほしい」「退院後はデイサービスを使わせたい」など家族の要望が強く出るケースもあります。
こうした要望は家族の生活を守る上で決して無視できませんし、患者本人が必要な介護を受け続けるためにも、重要性は高いと考えられます。
患者本人と家族のそれぞれの要望の中にある意図・想いへ丁寧に耳を傾けつつ、それらを本人・家族・療法士で共有し、全員が納得できる現実的なプランを追求することが求められます。

目標設定にあたっては、次の3つを意識してみてください。
1)価値観を共有する
「どんな生活を送りたいか」「何がその人にとって大切か」を丁寧に聴取する。改まった面談だけでなく、何気ない雑談の中からヒントが得られることもあります。
2)できる・できないではなく、どうすれば近づけるかを考える
可能性を広げる視点を持ち、本人のやる気を引き出しましょう。
3)家族との対話も欠かさない
家族のサポート体制や負担感にも配慮し、実現可能な目標に落とし込みます。
目標設定は、一度立てて終わりではありません。
状態の変化に合わせて見直しを行い、常に「今、その人にとって最適か」を考える柔軟さも大切です。
新人のうちは、「正解」を探そうとして悩むこともあるかもしれません。
しかし、大切なのは「本人と家族の声を聴こうとする姿勢」です。
その積み重ねが、信頼関係を生み、結果として良いリハビリに繋がっていきます。
投稿者
浅田 健吾先生
株式会社colors of life 訪問看護ステーション彩

平成21年に関西医療技術専門学校を卒業し、作業療法士の免許取得する。
回復期・維持期の病院勤務を経て、令和元年より株式会社colors of life 訪問看護ステーション彩での勤務を開始する。
在宅におけるリハビリテーション業務に従事しながら、学会発表や同職種連携についての研究等も積極的に行っている。
大阪府作業療法士会では、地域局 中河内ブロック長や地域包括ケア委員を担当しており、東大阪市PT.OT.ST連絡協議会の理事も務めている。
平成30年からは、大阪府某市における自立支援型地域ケア会議に助言者として参加している。
