【2025年10月24日】高市早苗総理大臣の所信表明演説にみる「健康医療安全保障」とリハビリテーションの未来

高市早苗総理大臣は2025年10月24日の所信表明演説で、「国民の命と健康を守ることは重要な安全保障である」と強調した。

あわせて、人口減少・少子高齢化の中で社会保障制度を再構築し、持続可能な医療・介護体制を整備する方針を示した。

高市早苗総理が掲げた「健康医療安全保障」は、国民の命と健康を守ることを国家安全保障の中核に位置づける新しい視点である。

医療・介護を単なる福祉政策ではなく、社会の持続性を左右する国家戦略と捉えた点に大きな意義がある。

総理は、人口減少と少子高齢化を乗り切るために、社会保障の「給付と負担の見直し」と「税と社会保障の一体改革」を進めると明言した。

これは、医療・介護制度の効率化だけでなく、国民的な合意形成の必要性を示すメッセージでもある。

また、OTC薬(市販薬)を含む自己負担の見直しや、電子カルテ・データヘルスの推進は、医療の生産性向上を狙うものである。

デジタル化による医療資源の最適化は、診療報酬改定にも連動するテーマであり、医療機関の運営や地域連携体制の再設計が求められる。

特にリハビリ分野では、データによる「成果の見える化」が今後ますます重要となる。

効果測定が曖昧なままでは、診療報酬や介護報酬におけるリハビリの価値は相対的に下がっていく。

総理はさらに、外来・在宅医療と介護を包括した「新しい地域医療構想」を策定すると述べた。

これは、病床再編や医師の偏在是正と並行して、地域包括ケアの質を再定義する取り組みである。現

場では、入院から在宅へとシームレスに移行できる「リハビリテーションの連続性」がカギを握る。

つまり、リハビリ職は病院完結型から地域完結型へのパラダイム転換を迫られている。

一方で、現役世代の保険料負担を抑えると同時に、「攻めの予防医療」を掲げた点も注目に値する。

これは健康寿命の延伸を通じて社会保障の支え手を増やすという構想であり、リハビリ専門職が「予防と活動支援の専門職」として社会的役割を拡張するチャンスでもある。

フレイル予防、生活動作の再構築など、リハビリが持つ生活支援の力をどのように地域の仕組みの中に組み込むかが今後の焦点になるだろう。

結局のところ、「健康医療安全保障」とは、医療提供体制の改革だけではなく、国民一人ひとりが自らの健康を守る主体となる社会をつくることに他ならない。

リハビリテーションは、その実践の最前線にある。治療と予防、そして生活支援をつなぐ専門職として、我々リハビリ職が新しい社会保障モデルの中で存在意義を再定義する時代が始まっている。

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筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授

医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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