2026年度診療報酬改定に向け、入院医療のあり方が大きな転換期を迎えている。
「入院・外来医療等の調査・評価分科会」は2025年9月25日の「とりまとめ」において、多疾患を有する高齢救急患者を急性期病棟と地域包括医療病棟のいずれで受け入れるべきか、また両者の患者像をどう整理するかを中心的な論点として提示した。
特に注目されるのが、「内科系疾患と外科系疾患における医療資源投入量のバランス」である。
現行制度では、外科系疾患(整形外科・消化器外科など)に比べて、内科系疾患(心不全・肺炎・糖尿病など)ではリハビリ資源が十分に配分されていない現状がある。
両者のリハビリの意味は明確に異なる。
内科系では、活動量低下や廃用の進行をいかに防ぐかが課題である。
心不全や肺炎などでは、治療が長期化するほどベッド上安静が続き、ADLが急速に低下する。
したがって、リハビリの目的は「悪化を防ぐ=防ぐリハ」であり、発症直後からの早期離床・安静予防が中心となる。
医療資源の配分が少ない内科系こそ、早期介入によるADL維持効果の可視化と報酬評価が必要とされている。
一方、外科系では、術後の回復と社会・在宅生活への再適応が主な目的である。
疼痛コントロール・可動域拡大・筋再教育・歩行再獲得を通じて、「失われた機能を取り戻す=取り戻すリハ」が中心となる。
同時に、退院後の生活を見据えた回復期・在宅移行支援、家屋評価や環境調整も不可欠である。
つまり、内科系は防ぐリハ、外科系は取り戻すリハという構造的な違いがあり、これらを踏まえた議論が進んでいくと考えられる。
さらに、分科会は地域包括ケア病棟との「緩やかな統合」にも言及し、急性期一般入院料2〜7・地域包括医療病棟・地域包括ケア病棟の統合的評価が焦点となっている。
これら3区分はいずれも「多疾患を抱える高齢者」を主対象とし、治療と在宅復帰支援を並行して行う点で患者像が類似している。
今後は、病棟機能を明確に分けるよりも、患者の重症度・ADL・回復ポテンシャルを共通指標とした緩やかな統合が議論されると考えられる。
これにより、入院医療の評価が「病棟区分」から「機能・回復力ベース」へ移行し、リハビリ・栄養・口腔連携など多職種の取組成果を横断的に評価する新体系が検討されている。
また、分科会では「リハビリ・栄養・口腔連携加算とADL改善度」の関連分析も示された。
入棟3日以内のリハ開始、休日リハ提供、チーム介入の一体化など、実際の介入プロセスと成果を照合し、算定しただけではなく成果が出たかを問う方向に進むとみられる。
この点は、今後の回復期リハ病棟入院料や地域包括医療病棟入院料の評価にも直結するだろう。
今回の改定論点が示すのは、リハビリ職が「単なる機能訓練者」から脱却し、医療・在宅をつなぐ生活機能マネジメントの実践者として再定義されるということだ。
内科・外科・在宅の区分を超え、どのフェーズでどんな介入が最も効果的かをデータで示す力が、これからの診療報酬改定対応の鍵になる。
参考
厚生労働省 「入院・外来医療等の調査・評価分科会」
「2026年度診療報酬改定に向けた入院・外来医療に関するとりまとめ」(2025年9月25日)
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筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授
医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」 や 「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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