近年の医療費動向から見えてきたのは、リハビリテーション医療が確実に社会の基盤的機能へと位置づけを変えつつあるという現実である。
特に令和7年度以降、外来を中心としたリハビリテーション費が全体医療費の伸びを上回り、一定の増加を持続している。
これは単なる需要増ではなく、超高齢社会における「生活を支える医療」への構造転換の表れである。
リハビリテーションの利用者層は明確に高齢化しており、85歳以上では増加が続く一方で、75歳未満では横ばい、あるいは減少傾向が見られる。
つまり、リハビリは「回復」ではなく、「維持・予防」を目的とする段階へと進化している。
高齢者が地域で暮らし続けるための身体機能維持、転倒予防、廃用予防といった生活期リハビリテーションの需要が常態化しているのである。
また、疾患構造をみると、運動器系リハビリテーションが中心軸となり続けている。
整形外科領域の慢性疾患、外傷、骨折後の機能回復など、地域医療の第一線で扱うケースが増加しており、特に整形外科診療所がリハビリ提供の主力拠点となっている。
かつての「病院中心」から、「地域診療所×訪問×通所リハ」へと重心が移動しつつある。
この流れを政策的に支えているのが、地域包括ケアシステムの深化と生活機能重視の評価体系である。
2026年度診療報酬改定では、「包括期機能」や「在宅移行支援」の強化が俎上に上がり、急性期から生活期へ切れ目なく支援する体制整備が焦点となる見通しである。
さらに、2027年度介護報酬改定では、LIFEデータの活用を通じた科学的リハビリテーションの評価が拡大することが予想される。
これらは、医療と介護の境界を越えた「生活支援型リハビリ」の確立を後押しする流れである。
今後のリハビリテーション部門に求められるのは、単なる提供量の拡大ではなく、「質と連携による価値創出」である。
高齢者の生活課題を中心に据えた評価・介入・再発防止を設計し、医療・介護・地域活動をつなぐハブとして機能することが求められる。
特に、訪問リハ・通所リハのデータ共有や、整形外科・ケアマネ・地域包括支援センターとの協働は、制度上の評価項目にも直結していく可能性が高い。
リハ職種にとって今は、制度変革の波に翻弄される時期ではなく、新たな役割を自ら定義し直す好機である。
身体機能の改善だけでなく、「地域生活の継続支援」という観点から、自らの専門性を再構築できるかどうかが問われている。
医療と介護をつなぐ次の時代の主役として、リハビリテーションの社会的使命はますます重く、そして広くなっている。
参考文献
厚生労働省「医療保険制度・医療費の動向」データベース
URL:https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/database/zenpan/iryou_doukou.html
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筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授
医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」 や 「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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