医療・介護業界では、慢性的な人材不足が深刻化している。
どの施設も「採用強化」を掲げ、求人広告を増やし、説明会を開き、紹介料を払ってまで人材確保に奔走している。
しかし、目の前の人材不足に振り回される経営者ほど、実は「経営のスタンス」が弱いといえる。
なぜなら、採用とは経営戦略の一部であり、理念と方針に基づいた組織づくりの結果であるにもかかわらず、それを短期的な「穴埋め作業」として扱ってしまっているからだ。
本来、人材不足とは「人がいない」のではなく、「理念に共感し、組織に残りたいと思える環境がない」という経営課題である。
採用の問題を「外部環境」のせいにしているうちは、何人採用しても離職が止まらない。
根本的な原因は、経営者自身が明確なビジョンを持たず、現場を導く思想や基準を示せていないことにある。
結果として、採用担当者や管理職がそれぞれの判断で動き、方向性の定まらない採用・育成・定着のサイクルが繰り返される。
経営者がすべきことは、焦って人を集めることではなく、まず「どんな組織をつくりたいのか」を明文化し、職員全員が共通理解をもてるようにすることである。
その上で、理念に共感し、同じ方向を向いて働ける人材を採用する。
採用活動とは、ビジョンの実現を担う仲間を迎える行為であり、単なる労働力の補充ではない。
経営者の姿勢が明確であれば、共感する人材は必ず集まる。
逆に、経営者のスタンスが曖昧で、その場しのぎの対応ばかりを続けていれば、職員は離れ、現場は混乱し、採用コストばかりが膨らんでいく。
「人材不足」は業界の宿命ではなく、経営の映し鏡である。
理念とビジョンを掲げ、そこに人を惹きつける力こそが、真の採用力である。
採用強化を叫ぶ前に、まずは経営者自身がスタンスを固め、どんな組織でありたいのかを明確に示すこと。それがすべての出発点であり、唯一の解決策である。
筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授
医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」 や 「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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