医療・介護・リハビリ現場における主体性の差と人材育成の課題

リハビリテーションや介護の現場において、最も大きな人材育成の課題の一つは「主体性の差」である。

患者・利用者に直接かかわる職種は、目の前の状況判断と対応力が求められるため、個人の主体性がそのままサービス品質に直結する。

言われなくても自ら動く職員は、高い自発性を持ち、チームの中でも模範となりやすい。

しかし、そうした職員ほど業務が集中し、周囲の支援が不十分な場合には燃え尽き症候群を起こしやすいというリスクがある。

この層には、キャリアパスや専門性のステップアップを示し、チーム全体で支える仕組みをつくることが不可欠である。

一方で「言ったことはする人」は、標準的な主体性を持つ反応型の人材である。

指示通りの仕事を確実に遂行する力は、リハビリ・介護現場の安定運営に欠かせない。

しかし、この層は自ら課題を発見し提案する習慣が乏しいことが多い。

そこで、ストレッチ課題の付与やケーススタディの振り返り、メンター・プリセプター制度などを通じて、自律的な判断力と行動力を育むことが重要である。

さらに「言ったこともできない人」は、基礎力やマインドセットの段階から整える必要がある。

利用者対応の基本、報連相、時間管理、チーム内コミュニケーションなど、仕事を遂行する前提を体系的に教育することが欠かせない。

段階的なOJTや小さな成功体験の積み重ねにより、自己効力感を醸成し、徐々に自律的な行動につなげることが求められる。

こうしたアプローチは、人材育成理論における「自己決定理論」や「期待理論」とも合致する。

自己決定理論によれば、自律性・有能感・関係性の三要素が満たされると内発的動機づけが高まるとされる。

高い主体性を持つ職員にはキャリアの見通しと承認を与え、有能感を強化する。

標準的な職員には挑戦の機会とサポートを提供し、自律性を高める。

基礎力不足の職員にはまず有能感を確立させることで、次の段階として自律性を育む。この段階的・個別的な支援が、現場全体の底上げにつながるのである。

リハビリ・介護の現場では、一律の研修や制度だけでは人材が育ちにくい。

個々の主体性レベルに応じた戦略をとることが不可欠である。

できる職員に負担を集中させるのではなく、標準的な職員を自律的に伸ばし、基礎力不足の職員を丁寧に引き上げることで、チーム全体のパフォーマンスは飛躍的に高まる。

主体性の差を見極め、それぞれに応じた支援を行うことこそが、リハビリ・介護現場の持続的な人材育成の核心である。

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筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授

医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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