介護保険事業所に「何でも屋」が通用しなくなる理由 ― 2026年に考えるターゲティング経営

2026年、介護保険事業所に求められているのは「誰でも受け入れること」ではなく、「自らの機能を明確にし、その機能が最も価値を発揮する利用者にサービスを届けること」である。

この方向性は2021年度介護報酬改定ですでに強まっていた。

訪問看護では理学療法士等による訪問の評価・対象が見直され、訪問リハビリとの役割分担が意識された。

さらに2024年度の診療報酬・介護報酬同時改定では、医療・介護連携、在宅復帰、自立支援・重度化防止、LIFE、リハ・栄養・口腔の一体的取組が強化された。

これは単なる加算の追加ではなく、通所介護、通所リハ、訪問看護、訪問リハ、老健などに「どの機能を担うのか」をより明確に求める制度への移行と考えるべきである。

しかし、現場では、「どんな利用者でも集める」「専門職がいるから何でも対応できる」という発想がなお残る。

経営理論でいえば、これはSTPにおけるTargetingを欠いた状態である。

顧客層ごとに必要な人員、設備、知識、連携体制は異なるため、すべてのニーズに高水準で応えようとすれば、教育・採用・設備投資・管理コストは膨らむ。

結果として専門性が分散し、加算要件への対応も中途半端となり、サービスが「流れ作業化」しやすい。

経営資源が有限である以上、「何をするか」だけでなく「何をしないか」を決める必要がある。

これはポーターの競争戦略における選択と集中にも通じる。

ポーターの競争戦略では、企業が持続的な競争優位を築くためには、すべての顧客に同じ価値を提供しようとするのではなく、差別化や集中戦略を通じて「どの市場で、どのような価値を提供するのか」を明確にすることが重要とされる。

また、戦略とは「何をするか」だけでなく、「何をしないか」を決めることである。

介護事業所も同様に、自社の人材、設備、専門性を踏まえて対象利用者を定め、限られた経営資源を集中させることで、サービスの質と経営効率の両立が可能になる。

2026年現在、2027年度介護報酬改定に向けた議論は、通所系、訪問系、老健などサービス別に進んでいる。

事業所は制度改定を待つのではなく、自社の人材、設備、地域ニーズを分析し、「どの利用者に、どの価値を提供する事業所なのか」を定義し、そのための採用・教育・加算取得・連携体制を整えるべきである。

ターゲッティングは利用者を排除する発想ではない。

限られた経営資源を、最も価値を生み出せる対象に集中し、サービスの質と経営の持続可能性を同時に高める経営判断である。

介護報酬改定が機能分化を促すほど、「何でも屋」の経営は難しくなる。

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執筆者
高木 綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
呼吸療法認定士
修士(学術/MA・経営管理学/MBA)
関西医療大学保健医療学部 客員准教授

医療・介護分野の現場経験とマネジメントの専門性を活かし、リハビリテーション部門や多職種連携に関するコンサルティングを全国で展開している。
在宅領域および整形外科リハビリテーションの臨床に長年取り組み、現場の実態を踏まえた実践的な視点を強みとする。
医療機関や介護事業所の立ち上げ支援、教育体制の構築、組織マネジメント支援など、実践的かつ現場に根ざした支援を得意とする。
また、コンサルティング先に加え、リハビリ職種養成校等でも臨床からマネジメントまで幅広く講義を行い、現場で再現できる形に落とし込んだ知見の提供に力を入れている。
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