慢性疼痛に対する運動療法の効果 ― 痛みを抑える運動のメカニズムと臨床応用 ―

我々リハビリ職種が実施する運動療法は、慢性疼痛の治療において有効であることが明らかとなっている。

例えば慢性腰痛では、複数の研究により、運動療法が疼痛の軽減だけでなく、身体機能やQOL(Quality of Life)の改善にも有効であることが示されている。

そのため、『腰痛診療ガイドライン2019』においても、「慢性腰痛に対する運動療法は有用であり、行うことを強く推奨する」とされている。

運動が疼痛を抑制する現象は、EIH(Exercise-Induced Hypoalgesia:運動誘発性疼痛抑制)と呼ばれている。

EIHには、身体に備わっている内因性疼痛抑制系の活性化が関与すると考えられている。

内因性疼痛抑制系には、内因性オピオイド系や脳幹を中心とした下行性疼痛抑制系などが含まれる。

つまり運動は、筋力や関節可動域などの身体機能を改善するだけではなく、脳や脳幹に存在する疼痛調節機構にも作用すると考えられているのである。

このような作用によって、運動そのものが疼痛を抑制する一つの治療手段になり得る。

さらに注目すべき点は、EIHが必ずしも痛みのある部位を直接運動させなくても生じる可能性があることである。

痛みのない部位の運動や、比較的低強度の有酸素運動であっても、疼痛抑制効果が期待できることが報告されている。

したがって、痛みが強く、患部を十分に動かすことが難しい症例に対して、無理に疼痛部位の運動から開始する必要はない。

まずは痛みが生じない運動から開始し、患者の反応を確認しながら運動強度や運動時間を調整していくことが重要である。

また、上肢に痛みがある場合には下肢運動を行うなど、痛みのない部位を利用して身体活動を確保するという工夫も考えられる。

慢性疼痛患者に対しては、「どこの筋肉を鍛えるか」という局所的な視点だけではなく、「どのように身体活動を継続してもらうか」という視点も重要となる。

さらに、いわゆる運動療法を処方するだけではなく、日常生活における身体活動量を増加させること自体も、疼痛の軽減につながる可能性がある。

そのため、散歩、買い物、家事、階段昇降、自転車など、患者が日常生活の中で無理なく継続できる活動を増やす提案も有用である。

例えば、周期的なペダリング運動では、セロトニン系などを介して下行性疼痛抑制系が賦活され、疼痛抑制に作用する可能性が示されている。

したがって、自転車に乗る時間を少し延長するなど、日常生活の中で身体活動量を増やすことによっても、疼痛を軽減できる可能性がある。

一方で、慢性疼痛患者では、痛みに対する恐怖や不安から身体活動を避けることで、活動量の低下、体力低下、さらなる疼痛増悪という悪循環に陥る場合がある。

そのためリハビリ職種には、単に運動方法を指導するだけではなく、患者が「これなら動いても大丈夫」と感じられる運動量を見極め、成功体験を積み重ねながら活動範囲を広げていく支援が求められる。

運動療法の目的は、単純に痛みをゼロにすることだけではない。

痛みがあっても生活できる身体機能を獲得し、患者自身が活動や社会参加を取り戻していくことも重要な治療目標となる。

リハビリ職種は、このような運動療法の工夫や日常生活における身体活動量の増加を提案することで、慢性疼痛患者の疼痛軽減と生活機能の改善に貢献できる可能性がある。

ぜひ日々の臨床において、慢性疼痛患者への治療や生活指導に活用していただきたい。

投稿者
井上拓也

・理学療法士
・認定理学療法士(循環)
・3学会合同呼吸療法認定士
・心臓リハビリテーション指導

理学療法士免許を取得後、総合病院にて運動器疾患や中枢神経疾患、訪問リハビリテーション等に関わってきました。すべての患者さんのために、障害された機能の改善やADLの向上に励んできました。特に運動器疾患においては、痛みの改善や関節可動域の改善、筋力向上を目的とした理学療法にて、患者さんのADLの向上を図ってきました。

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