慢性疼痛について

臨床において、「通常は痛みと感じない程度の刺激でも痛い」、「痛む範囲が広い」、「あちこち痛い」、「安静時や夜間にも痛い」等と訴える疼痛患者を担当したことがあるかと思われる。

このような患者は、器質的な原因を認めない、もしくは傷害が治癒しているにも関わらず、なかなか痛みの改善が得られなかったのではないであろうか。

こういったケースは、以前であれば『心因性疼痛』に含まれてきたと思われる。しかし、近年では『慢性疼痛』に陥っている可能性が示唆されている。

慢性疼痛を理解するために、2020年に国際疼痛学会により改定された『痛みの定義』を確認しておく。

痛みとは、「実際の組織損傷もしくは組織損傷が起こりうる状態に付随する、あるいはそれに似た、感覚かつ情動の不快な体験」であると定義される。

この痛みの定義において、前半部分に相当するのがいわゆる“急性痛”であり、器質的および機能的な損傷・障害によって起こる痛みである。

そして、後半部分が“慢性疼痛(慢性痛)”であり、認知処理情報や情動反応によって惹き起こされる痛みである。

つまり、この定義から急性痛と慢性痛ではその発生メカニズムが異なり、慢性痛は脳における認知や情動に関わる領域も関連があることがわかる。

急性痛は、侵害刺激が侵害受容器により感応され、その情報が脊髄神経後根神経節を経て脊髄後角に伝えられる。

そして、脊髄後角から上行性に伝導し視床を介し、大脳皮質の感覚野において知覚されることで痛みを感じるといった最も一般的に知られている痛みのメカニズムである。

一方、慢性痛は上行してきた痛みの伝導は、視床以外に前頭前野(内側前頭前野・背外側前頭前野)、扁桃体、島皮質、前帯状回等に投射される。

投射が連続的・長期的に行われると脳が可塑的な変化(機能的・構造的な適応性)を惹き起こされ、内因性鎮痛機構の減弱や中枢(性)感作が関与して、慢性痛が起こるとされる。

したがって、上記した患者の訴えは以下のような特徴がみられ、慢性疼痛になっている可能性を疑う。

・通常痛みと感じない程度の刺激でも痛い→疼痛閾値の減少

・痛む範囲が広い→痛み範囲の拡大

・あちこち痛い→痛み部位の増加

・安静時や夜間にも痛い(red fragは除外)→安静時・夜間の痛み

よくわからない痛み、いわゆる不定愁訴的な訴えをしてくる患者に対しても、拒否的にならずに一度『慢性疼痛』かもしれないと念頭におき臨床をしていただけると患者の診方・患者の接し方も変わるであろう。

投稿者
井上拓也

・理学療法士
・認定理学療法士(循環)
・3学会合同呼吸療法認定士
・心臓リハビリテーション指導

理学療法士免許を取得後、総合病院にて運動器疾患や中枢神経疾患、訪問リハビリテーション等に関わってきました。すべての患者さんのために、障害された機能の改善やADLの向上に励んできました。特に運動器疾患においては、痛みの改善や関節可動域の改善、筋力向上を目的とした理学療法にて、患者さんのADLの向上を図ってきました。

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