効果的なストレッチングに必要な解剖学・運動学の視点

一般的に、スタティック(静的)ストレッチングを実施する際には、その効果に影響する因子を整理しておく必要がある。

ストレッチングの効果に影響する主な因子として、強度、保持時間、セット数、実施期間などが挙げられる。

まず強度については、対象となる筋に適度な伸張感や抵抗感を感じる程度で保持することが基本となる。

過度な伸張は疼痛や筋損傷につながる可能性があるため、オーバーストレッチングには注意が必要である。

臨床的には、「対象者が痛みを感じることなく、許容できる範囲で十分な伸張感が得られる角度」と考えると理解しやすい。

保持時間については、一般的に30秒から2分程度のストレッチングによって、筋・腱複合体の柔軟性や関節可動域の改善が期待される。

また、セット数については、1回の保持時間だけでなく、1回の介入における総ストレッチ時間を考慮することが重要である。

例えば、30秒程度のストレッチングを3~4セット実施するなど、複数回に分けて一定時間の伸張刺激を加える方法が用いられる。

実施期間についても、一度のストレッチングのみではなく、数週間にわたって継続することで柔軟性や関節可動域の改善につながると考えられている。

一般的には、3~6週間程度継続したストレッチングによって、一定の効果が期待できるとされている。

ただし、強度、保持時間、セット数、頻度、実施期間については、対象となる筋や年齢、身体機能、目的、研究方法などによって結果が異なる。

そのため、「何秒行えば必ず効果が得られる」「何セットが最も優れている」といった統一された見解が完全に確立されているわけではない。

したがって、数値だけを機械的に当てはめるのではなく、対象者の反応を確認しながら調整することが重要である。

次に、筆者自身がストレッチングを実施する際に、特に意識しているポイントを3つ示す。

・対象となる筋の起始と停止を引き離すようにする

・起始側あるいは停止側の一方を固定し、もう一方を動かして伸張する

・可能な限り対象となる筋を個別化して伸張する

この3点に共通しているのは、骨格筋の解剖学と運動学を考えながらストレッチングを実施するということである。

単に「関節を大きく動かす」だけでは、目的とする筋が十分に伸張されているとは限らない。

対象となる筋の起始・停止、走行、関節に対する作用をイメージしながら実施することで、より目的に沿ったストレッチングが可能となる。

骨格筋は骨に付着しているため、基本的には骨の位置関係を変化させることで筋を伸張することができる。

したがって、対象筋が持つ作用とは反対方向へ関節を動かすことが、ストレッチングの基本となる。

例えば、ある筋が関節を屈曲させる作用を持つのであれば、その筋を伸張するためには、基本的に関節を伸展方向へ誘導することになる。

ただし、ここで重要となるのが固定である。

一方の骨を十分に固定したうえで、もう一方の骨を動かすことで、目的とする筋に伸張刺激を集中させることができる。

固定が不十分であれば、代償運動が生じ、関節そのものは大きく動いていても、目的とする筋には十分な伸張刺激が加わっていないことがある。

そのため、ストレッチングでは「どれだけ関節が動いたか」だけではなく、「どの部位が固定され、どの組織が実際に伸張されているのか」を確認する必要がある。

また、同じ名称の筋であっても、複数の筋頭を持つ筋では、それぞれ起始が異なるため、筋線維の走行や作用も完全に同一ではない。

二頭筋、三頭筋、四頭筋などがその代表である。

さらに、一つの筋群の中に単関節筋と二関節筋などの多関節筋が混在している場合もある。

この違いを理解していなければ、目的とする筋を十分に伸張できない可能性がある。

例えば単関節筋であれば、その筋が作用する一つの関節を中心に反対方向へ運動させる。

一方、二関節筋であれば、その筋がまたぐ二つの関節を考慮し、それぞれの関節を筋の作用とは反対方向へ誘導する必要がある。

多関節筋では、一方の関節だけを動かしても、もう一方の関節の位置によって筋が十分に伸張されない場合がある。

したがって、ストレッチングを行う際には、「この筋はどの関節をまたいでいるのか」「それぞれの関節でどのような作用を持っているのか」を考えることが重要となる。

このように、解剖学や運動学を考慮しながらストレッチングを実施することで、より効果的かつ選択的に目的とする筋を伸張することが可能となる。

さらに重要なのは、ストレッチングを一律の方法として捉えないことである。

同じ筋を対象としていても、筋緊張、疼痛、関節可動域制限、姿勢、代償運動、既往歴などによって適切な方法は異なる。

ストレッチング前後で関節可動域や動作、疼痛、伸張感などを確認し、本当に狙った組織に変化が生じているのかを評価する必要がある。

「何秒伸ばしたか」ではなく、「何を目的として、どの組織を、どのように変化させたいのか」という視点を持つことが、臨床におけるストレッチングでは重要なのである。

投稿者
井上拓也

・理学療法士
・認定理学療法士(循環)
・3学会合同呼吸療法認定士
・心臓リハビリテーション指導

理学療法士免許を取得後、総合病院にて運動器疾患や中枢神経疾患、訪問リハビリテーション等に関わってきました。すべての患者さんのために、障害された機能の改善やADLの向上に励んできました。特に運動器疾患においては、痛みの改善や関節可動域の改善、筋力向上を目的とした理学療法にて、患者さんのADLの向上を図ってきました。

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

CAPTCHA