高齢者こそ筋力トレーニング
高齢者であっても、身体機能や疾患の状態に応じた適切な負荷で筋力トレーニングを継続することにより、筋力、筋量、身体機能の改善が期待できる。
80歳以上の高齢者を対象とした研究を含むシステマティックレビューでも、レジスタンストレーニングによる筋力増強効果が報告されている(Grgicらのシステマティックレビュー・2020年)。
加齢によって筋力や筋量は低下しやすくなるが、「高齢だから筋肉は増えない」ということではない。
年齢だけを理由に筋力トレーニングを避けるのではなく、その人の体力、疾患、疼痛、生活環境に合った方法を選択することが重要である。
高齢者にも一定の負荷が必要である
一般的に、最大筋力の向上を目的とする場合は、比較的高い負荷を用いた筋力トレーニングが有効である。
高齢者を対象とした研究でも、適切に設計されたレジスタンストレーニングが、筋力、筋量、身体機能の改善に有効であることが示されている(NSCA「高齢者のレジスタンストレーニングに関するポジションステートメント」)。
しかし、高齢者のすべてに一律の高負荷トレーニングを実施すればよいわけではない。
高齢者では、変形性関節症、骨粗鬆症、心血管疾患、疼痛などを合併している場合がある。
また、長期間にわたって運動習慣がなく、筋力やバランス能力が大きく低下している人もいる。
そのため、負荷量、反復回数、運動速度、関節可動域、休憩時間などを個別に調整する必要がある。
高齢者の筋力トレーニングでは、「高い負荷をかけること」そのものを目的にするのではなく、安全なフォームを維持しながら、その人にとって十分な刺激を筋肉に与えることが重要である。
負荷が軽すぎても効果を得にくい
安全性を重視するあまり、負荷を極端に軽くしてしまうと、十分な筋力増強効果を得にくくなる。
ほとんど疲労を感じない運動を、同じ回数、同じ負荷で繰り返しているだけでは、筋肉がその刺激に慣れてしまう。
筋力を高めるためには、身体機能や疼痛の状態を確認しながら、回数、抵抗、運動時間などを段階的に増やすことが必要である。
運動強度の目安としては、本人が「少しきつい」「ややきつい」と感じる程度から開始する方法がある。
設定した回数を簡単に反復できるようになった場合は、回数や抵抗を少しずつ増やす。
反対に、フォームが大きく崩れる、関節痛が強くなる、息を止めなければ動作できない、運動後も強い疲労が残る場合は、負荷を見直す必要がある。
高齢者の筋力トレーニングでは、負荷を固定するのではなく、本人の状態に合わせて継続的に調整することが重要である。
負荷を漸増させる方法には、1RMに対する割合だけでなく、自覚的運動強度や「あと何回できるか」という反復余力を利用する方法もある(Buskardら「高齢者における筋力トレーニングの負荷漸増方法」)。
自重トレーニングやスロートレーニングも有効である
筋力トレーニングには、必ずしも重いダンベルや大型のトレーニング機器が必要なわけではない。
自分の体重を抵抗として利用する自重トレーニング、ゴムバンドを使った運動、椅子からの立ち上がり運動なども、適切に行えば筋力トレーニングとなる。
高齢者を対象とした研究では、オンライン動画を用いた自重トレーニングによって、椅子立ち上がり能力や歩行能力などが改善したことが報告されている(Leeら「高齢者に対する自重レジスタンストレーニングの効果」)。
また、軽い負荷であっても、筋肉の緊張を維持しながら動作をゆっくりと行うスロートレーニングによって、筋力や筋量が改善する可能性がある。
健康な高齢者を対象とした研究では、30%1RMという低い負荷でも、動作をゆっくりと行うことで筋力や筋サイズの改善が認められている(Watanabeら「低負荷スロートレーニングの効果」)。
ただし、ゆっくり動けば必ず効果が得られるわけではない。
対象となる筋肉に十分な緊張が加わっているか、適切な回数を実施できているか、運動後に過度な疲労が残っていないかを確認する必要がある。

抗重力筋と大筋群を優先する
高齢者の筋力トレーニングでは、立位や歩行を支える抗重力筋へのアプローチが重要である。
特に優先したいのは、大腿四頭筋などの膝伸筋群、臀筋群、下腿筋群、体幹筋群などである。
これらの筋群は、座位姿勢や立位姿勢の保持、立ち上がり、階段昇降、歩行などの日常生活動作に大きく関係している。
大筋群の筋力を維持することができれば、姿勢の安定、移動能力、活動時の耐久性の維持や向上につながる。
ただし、下肢や体幹だけを鍛えればよいわけではない。
物を持つ、手すりを使う、床から身体を起こすといった動作には、上肢の筋力も必要である。
したがって、下肢と体幹を優先しながらも、上肢を含めた主要筋群をバランスよく鍛えることが大切である。
WHOは、65歳以上の高齢者に対して、主要筋群を対象とした中等度以上の筋力強化活動を週2日以上行うことを推奨している(WHO「身体活動および座位行動に関するガイドライン」)。
さらに高齢者には、筋力トレーニングだけでなく、バランス能力や協調性を重視した多要素運動を組み合わせることも推奨されている。
筋力トレーニングとADL
高齢者にとって筋力トレーニングの大きな目的は、筋力測定の数値を高めることだけではない。
立ち上がる、立位を保つ、歩く、階段を昇る、買い物に出かけるなど、日常生活に必要な動作を維持することが重要である。
筋力が低下すると、立ち上がりや歩行に必要な身体的負担が相対的に大きくなる。
例えば、筋力に余裕がある人にとっては簡単な立ち上がり動作でも、筋力が低下した人にとっては最大能力に近い運動となる。
その結果、少し動いただけで疲れる、外出を避ける、さらに活動量が減るという悪循環が生じる。
筋力トレーニングによって身体機能を維持することは、活動量の低下、フレイル、サルコペニア、要介護状態を予防するうえでも重要である。
地域在住高齢者を対象としたシステマティックレビューでも、レジスタンストレーニングが移動能力低下の予防に役立つ可能性が報告されている(Lopezら「筋力トレーニングと移動障害リスクに関するレビュー」)。
筋力トレーニングと疾患予防
筋力トレーニングには、ADLや身体機能の改善だけでなく、糖代謝や循環器系に対する効果も期待できる。
運動によって骨格筋が収縮すると、筋肉への糖の取り込みが促進される。
また、筋力トレーニングを継続することで、インスリンが作用しやすい身体環境をつくり、血糖コントロールを改善できる可能性がある。
高齢者を対象としたランダム化比較試験のメタ解析でも、レジスタンストレーニングによってインスリン抵抗性の指標やHbA1cが改善したことが報告されている(Liら「高齢者のインスリン感受性に対する筋力トレーニングの効果」)。
筋量が増加し、体脂肪が減少することも、糖代謝や生活習慣病の管理に良い影響を与える可能性がある。
ただし、「筋肉が増えれば基礎代謝が大幅に増え、それだけで痩せる」と考えるのは適切ではない。
筋量増加による安静時エネルギー消費量の増加だけでなく、インスリン感受性の改善、身体活動量の増加、体脂肪の減少などを総合的に捉える必要がある。
筋力が向上して動きやすくなれば、歩行や外出などの日常的な身体活動も増えやすくなる。
その結果として、1日全体のエネルギー消費量が増加し、体重や体脂肪を管理しやすくなる可能性がある。

血圧に対する効果
筋力トレーニングには、血圧を改善する効果も期待されている。
高血圧または高血圧前段階にある高齢者を対象としたメタ解析では、中等度の負荷で行うレジスタンストレーニングによって、収縮期血圧と拡張期血圧が低下したことが報告されている(Henkinら「高齢者の血圧に対するレジスタンストレーニングの効果」)。
ただし、高血圧や心疾患のある人は、運動中に息を止めると血圧が急激に上昇する可能性がある。
動作中は呼吸を止めず、力を入れるときにゆっくり息を吐くことが大切である。
血圧が十分に管理されていない場合や、胸痛、強い息切れ、めまいなどがある場合は、自己判断で高負荷トレーニングを始めず、医師や専門職へ相談する必要がある。
高齢者の筋力トレーニングで大切なこと
高齢者の筋力トレーニングでは、安全性と有効性の両方を考える必要がある。
負荷を軽くしすぎれば十分な効果を得にくくなる。
一方で、身体機能や疾患の状態を無視して過剰な負荷をかければ、疼痛や体調不良につながる可能性がある。
重要なのは、年齢だけで運動の可否や負荷を決めないことである。
本人の筋力、関節の状態、既往歴、疼痛、運動経験、生活上の目標などを評価し、その人に合った負荷を設定する。
最初は軽い負荷から開始し、正しいフォームを習得したうえで、回数や抵抗を少しずつ増やす。
また、筋力トレーニングは、数回実施しただけで十分な効果が得られるものではない。
生活の中で無理なく継続できる方法を選択することが重要である。
自重トレーニング、椅子を利用した運動、ゴムバンド、マシントレーニングなど、その人の環境に合った方法を活用することが継続につながる。
内科疾患におけるリハビリテーションを学びたい方はこちらから → セミナー一覧
筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授
医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」 や 「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
経営相談・セミナー依頼はお気軽にお問い合わせください。


コメント