主動作筋の筋力低下を引き起こす要因は、大きく神経学的要因と形態学的要因に分けることができる。
形態学的要因の代表が、筋容積の減少、すなわち筋萎縮である。
以前のブログでは、筋力低下を引き起こす神経学的要因について、そのメカニズムを詳しく解説した。
一方、形態学的要因である筋萎縮については、十分に説明できていなかった。
そこで本稿では、筋萎縮がどのような仕組みで生じるのかを解説する。
リハビリ職種の皆様もご存じのとおり、古くから「筋が発揮できる最大筋力は、生理学的筋断面積に比例する」と考えられている。
筋の断面積や筋容積が減少すれば、一般的には発揮できる筋力も低下する。
骨格筋の大きさは、筋を構成するタンパク質の代謝によって維持されている。
具体的には、筋タンパク質の合成である「同化」と、筋タンパク質の分解である「異化」のバランスによって決まる。
筋タンパク質の合成と分解が均衡していれば、筋量はおおむね維持される。
合成が分解を上回る状態が続けば、筋肥大が生じる。
反対に、分解が合成を上回る状態が続けば、筋タンパク質が減少し、筋萎縮が進行する。
つまり、筋肥大と筋萎縮は、筋タンパク質の出入りを示す「筋タンパク質出納」の結果として捉えることができる。
不活動や安静臥床、関節固定などによって筋への負荷が減少すると、筋タンパク質の合成は比較的早い段階から低下する。

さらに、食事からタンパク質を摂取しても、筋タンパク質合成が十分に高まらない「同化抵抗性」も生じやすくなる。
実際に、数日間という短期間の不活動でも、筋タンパク質合成の低下、筋量の減少、筋力低下が起こることが報告されている。
従来、不活動の初期には筋タンパク質合成が低下し、その後は筋タンパク質分解の亢進が筋萎縮を進行させると説明されることが多かった。
しかし、ヒトを対象とした短期不活動の研究では、筋萎縮の主な要因は筋タンパク質合成の低下であり、筋タンパク質分解の明確な亢進は必ずしも確認されていない。
筋タンパク質分解の関与は、不活動の期間、疾患、炎症、栄養状態、年齢などによって異なると考える必要がある。
不活動による筋萎縮は、すべての筋肉や筋線維に同じように生じるわけではない。
特に、立位や歩行、姿勢保持に関与する抗重力筋は、活動量の低下による影響を受けやすい。
ヒラメ筋、大殿筋、脊柱起立筋などは、日常的に重力に抗して身体を支えている。
安静臥床や活動量低下によって、座位、立位、歩行の機会が減少すると、これらの筋への持続的な負荷も失われる。
その結果、ヒラメ筋などに多く含まれる遅筋線維、すなわちTypeⅠ線維に、比較的大きな萎縮が生じる場合がある。
ただし、萎縮しやすい筋線維の種類は、不活動の方法、対象となる筋肉、年齢、疾患などによって異なるため、「不活動では必ずTypeⅠ線維だけが萎縮する」とは限らない。
筋萎縮の中心となる変化は、個々の筋線維の断面積が小さくなることである。
つまり、筋線維そのものが細くなり、筋全体の容積が減少する。
加齢や長期間の疾患では、筋線維数の減少も筋量低下に関与すると考えられている。
一方で、筋線維数の減少を単純に「筋細胞のアポトーシス」と説明することには注意が必要である。
骨格筋は一つの筋線維に複数の核を持つ特殊な組織であり、筋核の変化やアポトーシスと筋線維消失との関係には、現在も議論が残されている。
このように、不活動による筋萎縮は、単に「筋肉を使わなかったから細くなった」という現象ではない。
筋への機械的負荷の減少、神経活動の低下、筋タンパク質合成の低下、同化抵抗性、栄養状態などが複合的に関与している。
そして筋線維が細くなり、筋断面積や筋容積が減少することで、最終的に筋力低下へとつながるのである。

リハビリ職種が日常的に関わる高齢患者のなかにも、活動量の低下や疾患によって筋萎縮が進行し、筋力が低下している方は少なくないと思われる。
そのような患者に対しては、痛みや関節可動域だけでなく、日常生活における活動量、立位や歩行の頻度、食事量、体重変化なども確認することが重要である。
筋萎縮をこれ以上進行させないという視点を持ち、患者の状態に応じた治療や運動、生活指導につなげていただきたい。
さらに、筋萎縮を防ぐには、治療手技だけでなく、可能な範囲での早期離床、抗重力活動、段階的な抵抗運動、十分なエネルギーとタンパク質摂取を組み合わせ、生活全体の活動量を高める視点が重要である。
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投稿者
井上拓也

・理学療法士
・認定理学療法士(循環)
・3学会合同呼吸療法認定士
・心臓リハビリテーション指導
理学療法士免許を取得後、総合病院にて運動器疾患や中枢神経疾患、訪問リハビリテーション等に関わってきました。すべての患者さんのために、障害された機能の改善やADLの向上に励んできました。特に運動器疾患においては、痛みの改善や関節可動域の改善、筋力向上を目的とした理学療法にて、患者さんのADLの向上を図ってきました。


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