筆者が理学療法士になった24年ほど前、2000年代前半の若かりし頃は、通常業務が終わった後の症例検討会や研修会への参加、土日祝の外部研修、深夜までの研究データ測定などは、ある意味で当たり前の光景であった。
今振り返れば、年間の残業時間は1000時間近くあったのではないだろうかと思う。
もちろん、当時はそれを苦労と感じるよりも、「成長するためには当然」と受け止めていた面もある。
しかし、時代は大きく変わった。
ワークライフバランス、働き方改革、ハラスメント防止、心理的安全性、人的資本経営、キャリア自律といった考え方が一般化し、リハビリテーション部門においても、就業前・就業後の社内研修を当然のように実施することは難しくなっている。
また、セラピストの仕事に対する価値観も多様化している。
臨床力を徹底的に高めたい人もいれば、家庭生活を重視したい人、副業や学び直しに関心を持つ人、管理職ではなく専門職としてのキャリアを深めたい人もいる。
固定化された働き方や、全員一律の教育モデルへの理解は、今後ますます得にくくなるだろう。
そのため、筆者が経験したような体育会系の教育方法を、現在のリハビリテーション部門にそのまま持ち込むことは不可能である。
むしろ、それを無理に続ければ、若手の離職、管理職への不信、組織全体の学習意欲低下を招く可能性すらある。
では、このような時代において、リハビリテーション部門の教育はどうあるべきだろうか。
重要なのは、時代が変わっても、組織の理念、ビジョン、求める人材像を明確にした上で、教育方針を決定することである。
理念やビジョンのない組織には、本質的な教育は存在しない。
なぜなら、目指すべき姿がなければ、何を教えるべきか、どの能力を伸ばすべきか、どのようなセラピストを育てたいのかが定まらないからである。
これからの教育は、単なる知識伝達ではなく、組織の方向性と個人の成長を接続する取り組みでなければならない。
成人学習理論の観点からも、人は一方的に教え込まれるだけでは成長しにくい。
自ら課題を認識し、経験を振り返り、現場で試し、再び学ぶという循環が重要である。
そのためには、就業時間内のOJTやOFF-JTを計画的に設計する必要がある。
現場任せ、先輩任せ、本人任せの教育ではなく、到達目標、評価項目、フィードバックの仕組みを明確にすることが求められる。
一方で、残業時間の抑制や人材不足により、内部人材だけで十分な教育体制を構築することが難しい組織も多い。
その場合、外部の教育事業者、オンラインセミナー、対面セミナー、オンデマンド教材などを活用することも、現実的かつ有効な教育戦略である。
むしろ、すべてを内部で抱え込もうとする発想から脱却し、内部教育と外部リソースを組み合わせることが、これからのリハビリテーション部門には必要である。
さらに、個人の多様化に対応するためには、キャリアマネジメントの導入が不可欠である。
個人の価値観を無視した教育は、もはや機能しない。
組織が求める役割と、個人が目指すキャリアをすり合わせる機会を持たなければ、スタッフの方向性はばらつき、結果として組織力は低下する。
重要なのは、個人の価値観にただ迎合することではない。
個人の強み、関心、将来像を把握した上で、それを組織の理念や事業目標にどう接続するかを考えることである。
これからのリハビリテーション部門に求められる教育とは、「昔のように頑張らせる教育」ではない。
理念を基盤に、学びの仕組みを整え、個人のキャリアを支援しながら、組織への貢献力を高める教育である。
時代が変わった以上、教育の方法も変えなければならない。
しかし、セラピストを育てる重要性そのものは、決して変わらないのである。
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執筆者
高木 綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
呼吸療法認定士
修士(学術/MA・経営管理学/MBA)
関西医療大学保健医療学部 客員准教授
医療・介護分野の現場経験とマネジメントの専門性を活かし、リハビリテーション部門や多職種連携に関するコンサルティングを全国で展開している。
在宅領域および整形外科リハビリテーションの臨床に長年取り組み、現場の実態を踏まえた実践的な視点を強みとする。
医療機関や介護事業所の立ち上げ支援、教育体制の構築、組織マネジメント支援など、実践的かつ現場に根ざした支援を得意とする。
また、コンサルティング先に加え、リハビリ職種養成校等でも臨床からマネジメントまで幅広く講義を行い、現場で再現できる形に落とし込んだ知見の提供に力を入れている。
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