一貫性のない上司が、部下の思考を止める

一貫性とは、「最初から最後まで矛盾がない状態であること。同じ態度を持続すること」を意味する言葉である。

管理職にとって、この一貫性は極めて重要である。

なぜなら、一貫性のない上司のもとで働く部下は、強いストレスを感じ、判断や行動に迷いが生じるからである。

その結果、組織は硬直化し、報告・相談・判断・行動のあらゆる場面でトラブルが起きやすくなる。

では、なぜ管理職は一貫性を持たなければならないのか。

それは、人間は矛盾の少ない環境においてこそ、安心して考え、判断し、行動できるからである。

たとえば、上司から「いちいち私に判断を仰ぐな。自分で考えて仕事をしてください」と言われたとする。

そこで部下は、自分なりに考え、自分の判断に基づいて仕事を進めた。

しかし、その結果として何らかのミスが起こり、上司に報告した。

すると上司は、「なぜ自分で勝手に判断したんだ。なぜ私に確認しなかったんだ」と叱責する。

このような状況は、部下にとって最悪である。

自分で判断しても怒られる。
上司に確認しても怒られる。

つまり、進むも地獄、退くも地獄である。

このような状態は、心理学でいう「ダブルバインド」に近い。

ダブルバインドとは、相手から矛盾したメッセージを受け取り、どちらを選んでも否定されるような状態である。

また、人は矛盾した指示や価値観にさらされると、認知的不協和を感じ、強い心理的負担を抱える。

その結果、主体的な判断よりも、怒られないための行動を選びやすくなる。

つまり、一貫性のない上司は、部下の自律性を育てているつもりで、実際には部下の思考を止めているのである。

部下は次第に、自分で考えることをやめる。

「どうすれば成果が出るか」ではなく、「どうすれば上司に怒られないか」を考えるようになる。

「患者・利用者にとって何が必要か」ではなく、「この判断を上司がどう受け取るか」を気にするようになる。

こうなると、現場のパフォーマンスは確実に落ちる。

リハビリテーションの現場では、状況判断が求められる場面が多い。

患者・利用者の状態は日々変化する。

家族の意向、多職種との連携、制度上の制約、リスク管理など、判断すべきことは非常に多い。

そのような現場で、上司の言動がその時々で変われば、部下は安心して判断できない。

昨日は「もっと主体的に動け」と言われた。
今日は「勝手に動くな」と言われた。
先週は「報告を増やせ」と言われた。
今週は「そんなことまで報告するな」と言われた。

これでは、部下は成長しない。

成長しないどころか、上司の顔色をうかがうだけの人材になってしまう。

管理職の仕事は、自分がすべてを判断することではない。

部下を通じて成果を出すことである。

そのためには、部下が安心して考え、行動し、失敗から学べる環境をつくる必要がある。その土台となるのが、管理職の一貫性である。

もちろん、管理職も人間である。状況によって判断が変わることはある。方針を修正しなければならない場面もある。

しかし、その場合には「なぜ判断を変えたのか」を説明する必要がある。

説明のない方針転換は、部下から見れば単なるブレである。

一方で、理由のある方針転換は、組織にとって必要な修正である。

この違いは大きい。

一貫性とは、何があっても意見を変えないことではない。

大切なのは、判断の軸があることである。

患者・利用者の利益を守る。
チームの安全を守る。
組織のルールを守る。
部下の成長を支援する。
専門職としての倫理を守る。

このような軸があれば、状況に応じて判断が変わったとしても、部下は納得しやすい。

逆に、管理職の機嫌、好き嫌い、その場の感情で判断が変われば、部下は上司を信頼できなくなる。

信頼できない上司のもとでは、心理的安全性は生まれない。

心理的安全性が低い職場では、部下は質問しない。相談しない。ミスを隠す。意見を言わない。

結果として、組織の問題は表面化せず、気づいた時には深刻な状態になっている。

だからこそ、管理職は一貫性を軽く見てはいけない。

一貫性は、部下を安心させる。

一貫性は、現場の判断基準を明確にする。

一貫性は、組織の信頼をつくる。

一貫性は、部下の主体性を引き出す。

そして、一貫性は管理職にとって強い武器となる。

管理職を担っている理学療法士・作業療法士・言語聴覚士の皆さん。

あなたは、部下に対して一貫性のある言動を取れているだろうか。

昨日と言っていることが違う。
人によって態度が違う。
機嫌によって判断が変わる。
説明なく方針を変える。
失敗した時だけ後出しで叱責する。

もし心当たりがあるなら、部下は想像以上に疲弊しているかもしれない。

管理職に必要なのは、完璧な正解を出し続けることではない。

判断の軸を持ち、その軸を部下に示し続けることである。

ブレない上司のもとで、部下は安心して挑戦できる。

一貫性のある管理職がいる職場では、部下は顔色ではなく、目的を見て動ける。

それこそが、強いリハビリテーション部門をつくる第一歩である。

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執筆者
高木 綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
呼吸療法認定士
修士(学術/MA・経営管理学/MBA)
関西医療大学保健医療学部 客員准教授

医療・介護分野の現場経験とマネジメントの専門性を活かし、リハビリテーション部門や多職種連携に関するコンサルティングを全国で展開している。
在宅領域および整形外科リハビリテーションの臨床に長年取り組み、現場の実態を踏まえた実践的な視点を強みとする。
医療機関や介護事業所の立ち上げ支援、教育体制の構築、組織マネジメント支援など、実践的かつ現場に根ざした支援を得意とする。
また、コンサルティング先に加え、リハビリ職種養成校等でも臨床からマネジメントまで幅広く講義を行い、現場で再現できる形に落とし込んだ知見の提供に力を入れている。
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