うちのセラピストには目標がない。
面談で「何をしたいのか」と聞いても、明確な返答が返ってこない。
そもそも、この人たちに本当にやりたいことがあるのかどうか分からない。
このような悩みを抱えている理学療法士・作業療法士・言語聴覚士の管理職は少なくない。
しかし、この悩みの背景には、管理職側の大きな思い込みがある。
それは、「セラピストとして働いている以上、セラピストとしての目標を持っているのが当たり前である」という前提である。
この前提こそが、そもそも誤りである。
筆者は、学生教育に携わり、またキャリアコンサルタントとして多くの人と接してきた。
その経験から分かったことは、「セラピストとして明確な目標を持っている人は、実は圧倒的に少ない」ということである。
別の言い方をすれば、セラピストとして明確な目標を持って働いている人は、かなりのレアケースである。
なぜなら、多くの人にとっては「セラピストになること」自体が大きな目標だったからである。
国家資格を取得し、就職し、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士として働き始める。
その時点で、ひとまず大きな目標は達成されている。
そのため、セラピストになった後に、どのような専門性を高めたいのか、どのような患者・利用者に貢献したいのか、どのような働き方を実現したいのかを、真剣に考える機会は意外と少ない。
したがって、管理職が部下に対して、いきなり「君は将来何がしたいのか」「あなたの目標を教えてほしい」「早くやりたいことを見つけなさい」と問いかけても、十分な答えが返ってこないのは当然である。
それは、部下の意欲が低いからではない。
単に、目標を言語化するための材料がまだ整理されていないだけである。
管理職が本当にやるべき仕事は、「部下の目標を聞き出すこと」ではない。
管理職がやるべき仕事は、「部下が目標を設定できるように支援すること」である。

つまり、目標を本人が自己決定できる状態まで伴走することが、管理職の重要な役割である。
単に面談で目標をヒアリングするだけでは、キャリア支援とは言えない。
人間がキャリアにおいて目標を設定するためには、自分が何を大切にしているのか、どのような働き方に納得感を持つのか、何にやりがいを感じるのかを整理する必要がある。
そのためには、「自己概念」「価値観」「キャリアアンカー」を研ぎ澄ます支援が不可欠である。
また、管理職は部下に対して、目標そのものを求める前に、経験の振り返りを促す必要がある。
どの業務で充実感があったのか、どの患者・利用者との関わりに意味を感じたのか、どのような場面で苦痛や違和感を覚えたのか。
こうした具体的な経験の中に、目標設定の材料は隠れている。
部下に目標ややりたいことを質問するだけの面談は、管理職の自己満足に終わりやすい。
大切なのは、答えを急がせることではない。
部下が自分自身を理解し、納得できる目標を少しずつ言語化できるように支援することである。
理学療法士・作業療法士・言語聴覚士の管理職は、ぜひ再認識してほしい。
部下の目標が出てこないことを嘆くのではなく、目標設定を支援することこそが、管理職の仕事である。
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筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授
医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」 や 「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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