従来のキャリア理論では、個人の興味・関心・価値観が重視され、個人の特性に合った職業選択やキャリア形成が重要であると説明されてきた。
しかし、医療・介護・福祉を取り巻く環境が大きく変化している現代においては、個人の興味や価値観だけを基準にしたキャリアデザインでは、臨床現場や地域社会のニーズとずれが生じる可能性がある。
特にリハビリ職種は、患者・利用者の生活、家族、地域資源、医療・介護制度、組織運営など、多くの要素と関わりながら専門性を発揮する職業である。
そのような背景を踏まえると、個人の希望だけでキャリアを考えるのではなく、社会や地域、家族、組織のニーズと自分の専門性をどのように統合するかが重要となる。
この考え方に関連して、1997年にサニー・ハンセンは「統合的人生設計」という概念を提唱した。
「統合的人生設計」とは、個人・家族・地域社会・世界のニーズを包括的に捉え、それらと自分の仕事や人生を結びつけながらキャリアデザインを行っていく考え方である。
統合的人生設計には以下の6つポイントがある。

1)グローバルな視点から仕事を探す
リハビリ職種は、自分の興味・関心・能力・価値観だけでなく、社会全体でどのような課題が生じているのかに目を向ける必要がある。
高齢化、認知症の増加、独居高齢者の増加、在宅医療・介護の拡大、地域包括ケア、介護人材不足、健康寿命の延伸など、リハビリ職種が関わるべき社会課題は多い。
自分が何をしたいかだけでなく、社会がリハビリ職種に何を求めているのかを考えることが重要である。
そのうえで、自身の専門性をどの領域で活かすのか、どのような患者・利用者・地域に貢献するのかを考えることが、これからのキャリアデザインには求められる。
2)自分の人生を「有意義な全体」として位置づける
リハビリ職種のキャリアは、単なる勤務先の選択や専門分野の選択だけではない。
臨床、教育、研究、管理、地域支援、家族との時間、自己研鑽、健康、経済的安定など、人生全体の中で仕事をどのように位置づけるかが重要である。
例えば、急性期で専門性を高める時期、回復期で生活再建に深く関わる時期、訪問リハビリで地域生活を支える時期、管理職として組織づくりに関わる時期など、キャリアには複数の役割が存在する。
興味や満足だけでなく、自分の人生全体の中で、どのようにリハビリ職種としての役割を果たすのかを考えることが重要である。
3)家族と仕事を結びつける
リハビリ職種のキャリア形成では、家族との関係や生活上の役割も無視できない。
育児、家事、介護、配偶者の仕事、親の介護、自身の健康状態などは、キャリア選択に大きな影響を与える。
特に医療・介護現場では、夜間対応、休日勤務、研修参加、学会活動、管理業務などにより、家庭生活との調整が必要になる場面も多い。
そのため、自分のやりたい仕事だけでなく、家族との生活や役割分担も含めてキャリアを考える必要がある。
リハビリ職種として成長することは重要であるが、その成長が家族や身近な人に過度な負担を与えていないかを考える視点も重要である。
4)多様性と包括性を重んじる
リハビリテーションの対象者は多様である。
年齢、疾患、障害、生活背景、家族構成、経済状況、文化、価値観、身体機能、認知機能、社会的役割など、一人ひとりの背景は大きく異なる。
そのため、リハビリ職種には、自分の価値観だけで患者・利用者を判断するのではなく、多様な人生や生活を理解しようとする姿勢が求められる。
また、職場においても、若手、中堅、ベテラン、子育て中の職員、介護を抱える職員、管理職を目指す職員、専門性を深めたい職員など、多様なキャリア観を持つ人々が存在する。
リハビリ職種のキャリアデザインでは、自分自身の価値観を大切にしながらも、他者の価値観や生活背景を尊重する姿勢が重要である。
5)内面的な意義や人生の目的を探る
リハビリ職種にとって、仕事の意義は単に機能改善を達成することだけではない。
患者・利用者が再び生活の中で役割を持つこと、家に帰ること、家族と過ごすこと、趣味を再開すること、最期までその人らしく生きることを支えることも、リハビリテーションの重要な価値である。
そのため、リハビリ職種は「自分は何のためにこの仕事をしているのか」「誰のどのような生活に貢献したいのか」を考える必要がある。
給料、役職、資格、専門分野だけでなく、仕事を通じてどのような意味を感じられるのかを探ることが、長期的なキャリア形成には重要である。
内面的な意義が明確になることで、困難な臨床場面や組織内の課題に直面しても、自分の軸を失わずに行動しやすくなる。
6)個人の転機と組織の改革に対処する
医療・介護・福祉の現場は、制度改定、診療報酬・介護報酬改定、地域包括ケアの推進、在宅医療の拡大、ICT化、人材不足などにより、常に変化している。
そのため、リハビリ職種には、個人のキャリアの転機に対応する力と、組織の変化に適応する力の両方が求められる。
例えば、病院から在宅領域へキャリアを広げる、臨床職から管理職へ移行する、専門職としての技術を高める、教育担当として後輩育成に関わる、地域支援事業に参画するなど、リハビリ職種のキャリアには多くの転機が存在する。
また、組織の方針転換や新しい制度への対応においても、自分の希望だけを主張するのではなく、組織や地域が求める役割を理解しながら、自身の専門性を再構築していく必要がある。
変化に抵抗するだけではなく、変化の中で自分の役割を見出す力が、これからのリハビリ職種には求められる。
例えば、セラピストがある専門分野に強い興味を持ち、その領域で活動したいと考えたとする。
しかし、その取り組みが患者・利用者の生活改善につながらない、地域のニーズと合っていない、所属組織の方向性と大きくずれている、あるいは家族に過度な負担をかけるものであった場合、そのキャリア選択は再検討する必要がある。
リハビリ職種にとって大切なのは、「自分がやりたいこと」と「社会から求められていること」を結びつけることである。
興味・関心・価値観はキャリアデザインにおいて重要である。
しかし、それだけでは不十分である。
患者・利用者の生活、家族、地域社会、組織、制度の変化と自分の専門性をどのように統合するのかを考えることが、これからのリハビリ職種に必要なキャリアデザインである。
サニー・ハンセンの統合的人生設計は、リハビリ職種に対して、個人の希望だけでなく、社会貢献、家族との調和、地域への貢献、人生全体の意味を踏まえてキャリアを考える重要性を示している。
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筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授
医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」 や 「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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