理学療法士・作業療法士・言語聴覚士に不足しているスキルの一つに、ビジネススキルがある。
養成校在籍中は、リハビリテーションや医学に関する知識、評価・治療技術、臨床実習などを中心に学ぶ。しかし、文書作成、資料作成、プレゼンテーション、情報整理、業務改善、対人調整といったビジネススキルについて、十分な時間をかけて学ぶ機会は決して多くない。
また、臨床に出てからも、多くのセラピストは評価や治療法、疾患別リハビリテーション、手技、運動療法などの学習には熱心に取り組む。一方で、ビジネススキルの習得は後回しになりやすい。結果として、臨床能力は高くても、資料作成が苦手、説明が伝わりにくい、会議で意見を整理できない、他職種との調整が苦手という課題を抱えるセラピストは少なくない。
しかし、現在の医療・介護の現場では、セラピストに求められる役割は大きく変化している。カンファレンス、申し送り、家族説明、計画書作成、報告書作成、プレゼンテーション、多職種連携、業務改善など、臨床技術だけでは対応できない業務が増えている。ビジネススキルが不十分であれば、現場での情報共有や意思決定に支障が生じ、結果として患者・利用者への支援の質にも影響を与える。
一昔前のセラピストであれば、リハビリテーションの職人として、評価と治療に専念していれば一定の役割を果たすことができた。しかし、現在はそれだけでは不十分である。これからの時代に求められるのは、リハビリテーションの専門性に加えて、ビジネススキルを身に着けた職人である。臨床ができるだけでなく、考えを整理し、他者に伝え、組織の中で成果につなげられる人材でなければ、現場では十分な戦力とみなされにくくなっている。
ビジネススキルとは、「仕事をするために最低限必要な仕事の技」である。
具体的には、以下の3つの要素に分けられる。
・テクニカルスキル(業務遂行能力):業務を正確かつ効率的に行うために必要な能力
・ヒューマンスキル(対人関係能力):上司、部下、同僚、他職種、患者・利用者、家族と円滑な関係を構築する能力
・コンセプチュアルスキル(概念化能力):物事の本質を見極め、課題を整理し、他のメンバーにわかりやすく伝える能力
これらのスキルは、日々の仕事を通じて高めていくことが基本である。しかし、効率的に学習を進めるためには、資格取得や体系的な学習も有効である。特に、テクニカルスキルに関する資格は多く存在しており、その気になればすぐに学習を開始することができる。
以下のような資格は、テクニカルスキルの向上に役立つ。
ビジネス実務マナー検定
パソコン検定
ビジネス能力検定
Word文書処理技能認定試験
MOS(マイクロソフト オフィス スペシャリスト)
ITコーディネーター
ビジネス・キャリア検定
情報検定
これからの時代、文書作成や表計算作成は、もはや特別なスキルではなく、最低限の業務能力である。計画書、報告書、会議資料、実績管理表、業務マニュアルなどを作成できなければ、組織の中で自分の考えや成果を十分に伝えることは難しい。
さらに、AIの普及により、セラピストに求められるビジネススキルの水準は今後さらに高まる。文章作成、情報整理、資料作成、データ分析、業務改善案の作成などは、AIを活用することで効率化できる時代になっている。しかし、AIを使いこなすためには、そもそも何を整理したいのか、どのような資料が必要なのか、誰に何を伝えるべきなのかを判断する力が必要である。つまり、AI時代においても、ビジネススキルは不要になるのではなく、むしろ重要性が増しているのである。
今後、医療・介護の現場では、ITを活用した情報管理、業務効率化、データに基づく意思決定がますます進んでいく。セラピストも例外ではない。リハビリテーションや医学の知識だけでなく、基本的なビジネススキル、ITリテラシー、AI活用能力を身に着けることが、専門職として生き残るために必要な条件になっていく。
これからの時代に求められるセラピストは、単に評価や治療ができる人材ではない。患者・利用者の生活課題を捉え、チームに情報を伝え、組織の中で成果を生み出し、AIやITも活用しながら業務の質を高められる人材である。
リハビリテーションの専門性を社会に届けるためにも、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士は、医学的知識や臨床技術に加えて、基本的なビジネススキルを学ぶ必要がある。専門職としての価値は、知識や技術を持っているだけでは十分に発揮されない。それを他者に伝え、組織の中で活かし、患者・利用者の生活改善につなげてこそ、本当の専門性と言えるのである。
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執筆者
高木 綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
呼吸療法認定士
修士(学術/MA・経営管理学/MBA)
関西医療大学保健医療学部 客員准教授
医療・介護分野の現場経験とマネジメントの専門性を活かし、リハビリテーション部門や多職種連携に関するコンサルティングを全国で展開している。
在宅領域および整形外科リハビリテーションの臨床に長年取り組み、現場の実態を踏まえた実践的な視点を強みとする。
医療機関や介護事業所の立ち上げ支援、教育体制の構築、組織マネジメント支援など、実践的かつ現場に根ざした支援を得意とする。
また、コンサルティング先に加え、リハビリ職種養成校等でも臨床からマネジメントまで幅広く講義を行い、現場で再現できる形に落とし込んだ知見の提供に力を入れている。
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