理学療法士・作業療法士・言語聴覚士の職域拡大は、今後ますます重要な課題となる。
有資格者が増加していく未来を見据えると、理学療法・作業療法・言語聴覚療法を必要とする顧客層や提供分野を拡大していくことは、喫緊の課題である。
リハビリテーションは、単に疾病や障害に対する専門的介入にとどまらない。
本質的には、人が生活を営むうえで生じる困りごとに対して、身体機能、活動、参加、環境、コミュニケーションなどの側面から支援できる実践的なツールである。
したがって、リハビリテーションの職域拡大を考えるうえでは、社会の中に潜在している生活支援ニーズをどのように明らかにするかが重要となる。
生活支援ニーズが顕在化しない背景には、大きく2つの抑圧構造が存在すると考えられる。
一つ目が、社会的抑圧である。
二つ目が、個人的・家族的抑圧である。
1)社会的抑圧が原因となりニーズが顕在化しないケース
・社会において、生活支援としてのリハビリテーションサービスが十分に認識されていない
・保健・医療・福祉・介護などの専門職間における情報共有や連携が不十分であり、必要な人に必要なサービスが紹介されにくい
・サービスの供給量や提供体制が限定的であるため、利用者側が「利用してよいもの」と認識しにくく、サービス利用をためらう心理的規制が生じる
2)個人的・家族的抑圧が原因となりニーズが顕在化しないケース
・本人が生活上の困難や支援ニーズを自覚していても、家族関係、経済的不安、遠慮、羞恥心、葛藤などにより、そのニーズを表現できない
・本人や家族が、生活上の困難を「年齢のせい」「仕方がないこと」「家族で対応すべきこと」と捉え、専門的支援の対象として認識できていない

現在のリハビリテーションサービスは、その多くが医療保険・介護保険を用いた保険内サービスとして提供されている。
しかし、保険内サービスであっても、リハビリテーションの介入が十分に届いていないケースは少なくない。
本来、理学療法・作業療法・言語聴覚療法が必要な人に対して、適切なタイミングで、適切な内容と量が提供されることは、いまだ容易ではない。
これは、制度上の制約、専門職間連携の不足、利用者側の認識不足、サービス供給体制の偏在など、複数の要因が重なって生じている問題である。
ましてや、保険外リハビリテーションサービスについては、社会的認知がまだ十分とは言えない。
日本においては、保険外サービスが「必要に応じて選択する生活支援サービス」として一般化しているとは言い難く、いまだ市民権を得ていない状況である。
しかし、社会的抑圧が改善されれば、個人的・家族的抑圧にも変化が生じる可能性がある。
つまり、社会の中でリハビリテーションの価値や活用場面が広く認識されるようになれば、本人や家族も「これは相談してよいこと」「支援を受けてよいこと」と認識しやすくなる。
その結果、これまで表面化しなかった生活支援ニーズが顕在化し、保険外リハビリテーションサービスが社会の中で一般的な選択肢となっていく可能性は高い。
現時点では、保険内・保険外の両面から職域拡大に取り組んでいる理学療法士・作業療法士・言語聴覚士は、まだ決して多くない。
また、そのような実践があったとしても、社会やメディアに十分に取り上げられる機会は少ない。
まさに、この状況そのものが社会的抑圧である。
リハビリテーションの職域拡大は、単に新しいサービスを作ることから始まるのではない。
まずは、社会に存在する生活支援ニーズを可視化し、理学療法・作業療法・言語聴覚療法がどのような課題を解決できるのかを社会に示す必要がある。
社会的抑圧を改善し、潜在化しているニーズを顕在化させること。
そこから、リハビリテーション専門職の職域拡大は始まる。
管理職・リーダーとしてのマネジメントを学びたい方 → セミナー一覧はこちら

執筆者
高木 綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
呼吸療法認定士
修士(学術/MA・経営管理学/MBA)
関西医療大学保健医療学部 客員准教授
医療・介護分野の現場経験とマネジメントの専門性を活かし、リハビリテーション部門や多職種連携に関するコンサルティングを全国で展開している。
在宅領域および整形外科リハビリテーションの臨床に長年取り組み、現場の実態を踏まえた実践的な視点を強みとする。
医療機関や介護事業所の立ち上げ支援、教育体制の構築、組織マネジメント支援など、実践的かつ現場に根ざした支援を得意とする。
また、コンサルティング先に加え、リハビリ職種養成校等でも臨床からマネジメントまで幅広く講義を行い、現場で再現できる形に落とし込んだ知見の提供に力を入れている。
経営相談・セミナー依頼はお気軽にお問い合わせください。
