「どんな利用者でも受け入れる」は危険な経営判断である

 

筆者がコンサルティングをしていると、次のような医療機関・介護事業所に出会うことがある。

とにかく稼働率を上げるために、どのような利用者でも受け入れる。
医療・介護技術が十分に整っていないにもかかわらず、難易度の高い利用者へのサービス提供を行う。
理念やビジョンは不明確である一方で、売上を上げる意思だけは極めて明確である。

このような事業所に共通しているのは、「誰のために事業をしているのか」という視点が欠けていることである。

どれほど優れた医療機関や介護事業所であっても、世の中すべての患者や利用者に対応できるわけではない。
医療・介護サービスには、それぞれ対応できる範囲、得意とする領域、蓄積してきた専門性がある。

ビジネスにおけるマーケティングの基本に、「顧客ターゲットを決める」という考え方がある。
顧客ターゲットを明確にすることで、次のようなメリットが生まれる。

まず、自分たちの価値を届けたい顧客が明確になるため、顧客からの反応を得やすくなる。
次に、ターゲットとする顧客のニーズに応え続けることで、自社の知識、技術、対応ノウハウが蓄積される。
さらに、対象が明確になるため、広報や営業などのプロモーション活動も効率的に行えるようになる。

それにもかかわらず、世の中には「どのような利用者でも受け入れる」という方針の老人保健施設、サービス付き高齢者向け住宅、通所介護、リハビリテーションクリニックが存在する。

一見すると、幅広く受け入れることは地域貢献のように見えるかもしれない。
しかし、自社の体制や専門性を超えた受け入れは、サービスの質の低下、職員の疲弊、事故リスクの増大につながる。
結果として、利用者満足度も職員満足度も低下し、組織全体の信頼を損なうことになる。

このような医療機関・介護事業所は、結局、自社の特徴を形成することができない。
特徴がなければ、選ばれる理由も生まれない。
選ばれる理由がなければ、長期的なブランディングにも失敗する。

ブランディングがうまくいかなければ、継続的な顧客獲得は困難となる。
その場しのぎで稼働率を追いかけても、組織の価値は高まらない。

「どんな利用者でもいい」という発想は、今すぐに捨てるべきである。
医療機関・介護事業所に必要なのは、誰に、どのような価値を提供するのかを明確にすることである。
ターゲットを絞ることは、利用者を排除することではない。
自社が責任を持って価値を提供できる相手を明確にする、経営上の重要な意思決定なのである。

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執筆者
高木 綾一

株式会社WorkShift 代表取締役
国家資格キャリアコンサルタント
理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
呼吸療法認定士
修士(学術/MA・経営管理学/MBA)
関西医療大学保健医療学部 客員准教授

医療・介護分野の現場経験とマネジメントの専門性を活かし、リハビリテーション部門や多職種連携に関するコンサルティングを全国で展開している。
在宅領域および整形外科リハビリテーションの臨床に長年取り組み、現場の実態を踏まえた実践的な視点を強みとする。
医療機関や介護事業所の立ち上げ支援、教育体制の構築、組織マネジメント支援など、実践的かつ現場に根ざした支援を得意とする。
また、コンサルティング先に加え、リハビリ職種養成校等でも臨床からマネジメントまで幅広く講義を行い、現場で再現できる形に落とし込んだ知見の提供に力を入れている。
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