「起業」「パラレルキャリア」「年収増加」といった、いわゆる「キラキラワード」を繰り返し用いながら、セラピストのキャリアを語るPT・OT・STが増えている。
Facebook、Instagram、X(旧Twitter)などでも、こうした言葉を前面に出し、キャリアデザインを過度にあおる発信は少なくない。そうした発信を行う人の中には、自らを「新しい時代のキャリアデザインの先導者」であるかのように位置づけ、自己陶酔的になっているケースも見受けられる。
しかし、その実態は、自分自身のキャリア観を他人に遠回しに押しつけているだけであることも多い。しかも、相手から異論や反論が出ると、「別に押しつけているわけではない」と逃げ道を作る。このような態度からは、キャリアデザインの本質に対する理解の浅さがうかがえる。
本来、キャリアデザインとは、単に働き方の選択肢を増やすことではない。より本質的には、「自己概念を形成していく営み」である。自己概念とは、自分は何に興味を持ち、何を大切にし、どのような価値観をもって生きるのかという、自身のアイデンティティの土台となるものである。
人が仕事や人生で悩み続ける背景には、この自己概念が十分に整理されていないことが少なくない。逆に言えば、たとえ困難な状況にあっても、その経験が自分の価値観や生き方に深く結びついているものであれば、人は踏ん張ることができる。苦しさの中にも意味を見いだし、その過程さえ前向きに受け止められることがある。
だからこそ、自己概念の形成を抜きにしてキャリアデザインを進めることは危うい。「起業すること」「副業を持つこと」「年収を上げること」は、あくまで選択肢の一部であり、手段にすぎない。それ自体が目的化した瞬間に、キャリアデザインは本質から外れてしまう。

にもかかわらず、「起業」「パラレルキャリア」「年収増加」ばかりを強くあおる人がいるとすれば、その人はあなたの人生を真剣に考えているのではなく、あなたを自分の文脈に引き込みたいだけなのかもしれない。場合によっては、利用しようとしている可能性すらある。
そのような相手に出会ったときは、無理に付き合う必要はない。距離を置くことも、ときには大切な自己防衛である。
キャリアデザインの第一歩は、流行の言葉に飛びつくことではない。まず、自分自身の興味、関心、価値観に丁寧に向き合うこと。その土台があってはじめて、自分にとって納得できる働き方や生き方が見えてくるのである。
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筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授
医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」 や 「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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