長く続いた賃金停滞という現実
1990年代後半から長らく、理学療法士・作業療法士の給与水準は、他の医療専門職と比べて伸び悩んできた。医師、歯科医師、薬剤師、看護職の給与水準が相対的に上昇してきたことを踏まえると、理学療法士・作業療法士の処遇は決して恵まれてきたとは言い難い。
この事実は、単なる不満として片づけるべきではない。給与水準は、その職種に対する社会的評価、需給バランス、制度上の位置づけをある程度反映している。したがって、賃金が長く停滞してきたということは、理学療法士・作業療法士の市場価値が構造的に上がりにくい状況に置かれてきたことを意味するのである。
給与は個人の努力だけでは決まらない
当然ながら、給与は本人の努力だけで決定されるものではない。需要と供給、診療報酬、介護報酬、配置基準、事業構造など、外部環境の影響を強く受ける。
近年、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士の人数は増加している。しかし、供給が増えれば希少性は低下しやすい。資格を持っているだけで高く評価される時代ではなくなりつつあるのである。つまり、資格そのものに守られる時代から、資格を使って何を生み出せるかを問われる時代へ移行しているということである。
危機感の乏しさが最大の問題である
より深刻なのは、こうした環境変化に対する危機感の乏しさである。理学療法士・作業療法士は国家資格であり、医療や介護に必要な職種である。そのため、どこかで「自分たちは必要とされ続ける」という前提で物事を見てしまいがちである。
しかし、その認識は危うい。危機感がなければ、人は環境の変化を見ようとしない。変化が緩やかであるほど、深刻さに気づきにくい。いわゆる「ゆでガエル現象」である。何も手を打たないまま時間が過ぎれば、気づいたときには自分の価値が相対的に低下していたという事態も十分にあり得る。
社会環境はすでに大きく変わっている
実際、理学療法士・作業療法士を取り巻く社会環境は大きく変化している。地域包括ケアシステムの進展、在宅リハビリテーションの推進、AIやロボットテクノロジーの発展、労働人口の減少など、従来の病院中心モデルだけでは対応しきれない時代に入っている。
これから求められるのは、単にリハビリを提供できる人材ではない。地域の中で役割を果たし、組織に利益や価値をもたらし、多職種と連携しながら成果を出せる人材である。資格を持っていることではなく、どのような価値を提供できるかが問われる時代なのである。
近年は賃上げの流れもある
もっとも、近年は医療・介護分野で賃上げの流れが出てきている。診療報酬改定や処遇改善の仕組みを通じて、現場の給与を底上げしようとする政策は進められている。これは理学療法士・作業療法士にとって一定の追い風である。
しかし、ここで勘違いしてはならない。制度による賃上げは、あくまで全体の底上げにすぎない。全員が同じように評価され、同じように収入が伸びるわけではない。組織の経営状況が厳しければ、制度上の加算があっても十分に還元されないこともある。つまり、制度は助けにはなるが、個人の将来を保証してくれるものではないのである。
これからは自助努力がますます重要になる
だからこそ、これからの理学療法士・作業療法士には自助努力が不可欠である。ここでいう自助努力とは、単に勉強会に参加することではない。自分の専門性を磨くことはもちろん、在宅、地域、多職種連携、マネジメント、教育、営業的視点、情報発信など、自分の価値を高める行動全般を指す。
組織に所属しているだけで守られる時代ではない。資格を持っているだけで評価される時代でもない。自らの価値を高め、周囲に伝え、必要とされる存在になる努力が求められる。その積み重ねが、結果として収入や役割の拡大につながるのである。
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筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授
医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」 や 「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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