回復期リハビリテーション病棟は、いまや明らかに成熟市場として捉えるべきである。病床機能報告では、回復期リハビリテーション病棟入院料に相当する病床は約8.7万床に達しており(厚生労働省「新たな地域医療構想について」)、制度としての整備は相当程度進んでいる。つまり、もはや「回復期という領域にいる」こと自体が優位性になる時代ではない。
しかも、回復期リハビリテーション病棟は、診療報酬上の要件や実績評価が年々厳格化しており、量的拡大だけでは差別化しにくくなっている。今後は、質の高いアウトカム、的確なマネジメント、他職種連携、データに基づく運営などを通じて、同じ市場の中でどう選ばれるかが問われる。すなわち、回復期は導入期でも成長期でもなく、成熟期の競争に入っているのである。
一方で、訪問リハビリテーションは、成長期にある領域として位置づけることができる。令和6年度介護給付費等実態統計では、訪問リハビリテーションの年間実受給者数は19.0万人(厚生労働省「令和6年度介護給付費等実態統計の概況」)、介護予防訪問リハビリテーションは4.8万人(同)であり、いずれも前年度より増加している。これは、在宅生活を支えるリハビリテーションへの需要が、着実に積み上がっていることを示している。
さらに、2040年に向けて在宅医療需要は一段と増加すると見込まれている。85歳以上の訪問診療需要は2020年比で62%増(厚生労働省「新たな地域医療構想について」)と推計されており、今後は医療と介護の複合ニーズを抱えた高齢者が地域で生活を続ける時代になる。この流れの中で、訪問リハビリテーションは単なる機能訓練の提供ではなく、生活支援、重症化予防、終末期を含めた地域生活の維持を担う重要なサービスとして、存在感を高めていくはずである。
したがって、訪問リハビリテーションのような成長市場においては、早い段階からマーケティングを軽視してはならない。市場が伸びる領域には、必ず新規参入や競争激化が起こるからである。需要が増えるから自然に選ばれるのではない。利用者、家族、ケアマネジャー、地域の医療介護職に対して、自社の強みと価値を一貫して伝え続けた事業者が、成長市場の中で優位を築いていくのである。
また、理学療法士の登録者数は2021年時点で19万2,276人(厚生労働省「令和4年版厚生労働白書」)に達している一方、就業先は医療施設が約82%、介護分野が約11%(同)であり、依然として医療機関偏重の構造が強い。だが、今後の需要の伸びがより大きいのは、むしろ在宅・地域側である。だからこそ、セラピスト自身も、回復期中心の発想だけで将来を考えるのではなく、訪問・地域生活支援の文脈で専門性をどう磨くかを考える必要がある。
要するに、回復期リハビリテーション病棟は成熟市場であり、勝負の軸は「量」ではなく「質」と「運営」である。他方、訪問リハビリテーションは成長市場であり、今後の地域包括ケア時代を支える中核の一つになっていく。業界の変化を受け身で待つのではなく、市場構造の変化を読み、自らの働き方と事業のあり方を先回りして変えていくことが、これからのリハビリテーション業界には求められる。
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筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授
医療・介護分野の現場経験とマネジメントの専門性を活かし、リハビリテーション部門や多職種連携に関するコンサルティングを全国で展開している。
在宅領域および整形外科リハビリテーションの臨床に長年取り組み、現場の実態を踏まえた実践的な視点を強みとする。
医療機関や介護事業所の立ち上げ支援、教育体制の構築、組織マネジメント支援など、実践的かつ現場に根ざした支援を得意とする。
また、コンサルティング先に加え、リハビリ職種養成校等でも臨床からマネジメントまで幅広く講義を行い、現場で再現できる形に落とし込んだ知見の提供に力を入れている。
セミナー講師としても多数登壇し、現場の課題解決につながる知見の共有を行っている。
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