すでに日本は年間死亡者数が160万人を超える時代に入っている。
厚生労働省の2024年人口動態統計では、死亡数は160万5千人台に達しており、多死社会は現実のものとなっている。
こうした状況のなかで、在宅や施設において、医療依存度や介護度の高い高齢者を支える場面は今後さらに増えていくと考えられる。
日本が直面しているのは、単なる高齢化ではない。
超高齢社会の進行により、複数の疾患を抱え、身体機能だけでなく認知機能や生活機能も低下した高齢者が増えているのである。
その結果、訪問看護、訪問リハビリテーション、通所介護、通所リハビリテーション、介護施設などでは、従来以上に状態の重い利用者を支えることが求められている。
医療や介護の質の向上が不可欠である理由は、まさにここにある。
このような背景から、施設や在宅で行われるリハビリテーションにも明確な変化が生じている。
これまでのリハビリテーションは、機能改善やADL向上を目指し、右肩上がりの回復を支える色合いが強かった。
しかし、すべての利用者が回復や自立の拡大を主目標にできるわけではない。
病状の進行が避けられない人、看取りを視野に入れた支援が必要な人に対しては、右肩下がりのADLをどう支えるかという視点が不可欠となる。
重症者や看取り期の患者に必要なのは、ADL改善だけを目的としたリハビリテーションではない。
むしろ重要なのは、残された時間のなかで、その人らしさや尊厳をどう守るかである。
苦痛を軽減し、意思を尊重し、家族との時間を支え、生活の質を保つことが終末期リハビリテーションの本質である。
厚生労働省の資料でも、終末期や身体的自立が困難な利用者に対しては、尊厳を守る支援やQOLを支える視点が重視されている。
たとえば、在宅で療養する進行がんの利用者を考えてみたい。歩行能力の改善が難しい状況であっても、リハビリテーションの役割がなくなるわけではない。
呼吸苦を和らげるためのポジショニング、ベッド上で少しでも楽な姿勢を見つける工夫、トイレ移動が難しい場合の動線調整、家族が無理なく介助できる方法の指導などは、すべて重要な支援である。
場合によっては、「歩けるようになる」ことよりも、「夜に苦痛が少なく眠れる」「家族と食卓を囲む時間をつくる」「最期まで自宅で過ごせるよう支える」といった目標のほうが、はるかに現実的で意味のある目標となる。
また、誤嚥リスクの高い高齢者では、食事姿勢の調整、車椅子シーティングの見直し、口腔機能や嚥下状態に配慮した関わりがQOLに直結する。
全身状態の改善が見込みにくい場面でも、「安全に少しでも口から食べる」「本人の希望する食形態に近づける」「食べる時間を苦痛ではなく楽しみに変える」といった支援は十分に価値がある。
ここでは、機能回復そのものよりも、生活の充実や本人の満足感をいかに支えるかが問われるのである。
終末期リハビリテーションでは、身体面だけを見ていては不十分である。
痛み、呼吸苦、倦怠感などの身体的苦痛はもちろん、家族に迷惑をかけているという思い、社会とのつながりを失う苦しさ、死を前にした不安や喪失感など、心理・社会・実存の側面にも目を向けなければならない。
リハビリテーション専門職が単独でこれらすべてに対応できるわけではないが、少なくとも「動けない理由は筋力低下だけではない」ことを理解し、多職種につなぐ感度を持つことは極めて重要である。
しかし現実には、PT・OT・STが終末期リハビリテーションを体系的に学ぶ機会はまだ十分とは言えない。
急性期や回復期の評価・治療技術は学んできても、看取り期における目標設定、苦痛への配慮、家族支援、意思決定支援、多職種連携については、現場で手探りのまま向き合っている専門職も少なくない。
そのため、終末期の利用者に対して「何をすればよいのか分からない」「頑張らせることが本当に本人のためなのか迷う」と悩む場面が生まれやすいのである。
これからの在宅・施設リハビリテーションに求められるのは、回復を目指す力と、低下していく過程を支える力の両方である。
大切なのは、その人の病期や生活背景に応じて、目標を適切に組み替えることである。
昨日まで「自立歩行の獲得」が目標だった人が、今日は「苦痛なく座って家族と会話すること」が目標になることもある。
その変化を敗北として捉えるのではなく、その時期にふさわしい支援へ移行する専門性として捉える必要がある。
終末期リハビリテーションの重要性は、今後さらに高まっていくはずである。
多死社会の進行、在宅医療・介護の拡大、施設における重度者対応の増加を考えれば、終末期に関わるリハビリテーション専門職の役割はむしろ広がっていくと見るべきである。
だからこそ、現職のPT・OT・STにとっては、終末期を「特別な領域」として避けるのではなく、自らのキャリアの一部として学び直すことが大きな課題となる。
終末期リハビリテーションとは、治すことが難しい人に対して何もしないことではない。
残された時間の質を高め、その人らしい生活と尊厳を支えるために、できることを見極めて実践する営みである。
在宅や施設で働くセラピストにとって、この領域から目を背けることはできない。
今後の医療・介護において、終末期リハビリテーションの展開は極めて重要なテーマであり、その動向に引き続き注目していく必要がある。
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筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授
医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」 や 「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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