多職種連携を左右する「信頼資産」と「不信負債」:地域包括ケア時代のリハビリ職種に求められる力

「信頼資産」とは、信頼を積み上げることによって形成される資産である。
一方で「不信負債」とは、信頼を失い続けることで形成される負債である。

この二つの要素は、多職種連携に大きな影響を与える。

多職種連携では、「他の職種に何かをお願いすること」が非常に多い。

家族の方に患者の自主トレーニングの付き添いをお願いする。
訪問ヘルパーの方に利用者の座位保持への誘導をお願いする。
看護師の方にポジショニングをお願いする。
このように、他者への依頼は多職種連携において必須である。

そして、依頼を受けた側がその事項を実行するか否かは、依頼元に対してどれほど信頼が蓄積されているかに大きく依存する。

簡単に言えば、信頼している人からの依頼には対応しやすい。

一方で、不信を持っている相手からの依頼には対応しにくい。

これは感情論ではなく、組織行動論や対人関係論の観点からも説明できる。

人は、相手の誠実性、一貫性、配慮、専門性を感じるほど協力行動を取りやすくなる。

つまり信頼は、連携を促進する心理的基盤なのである。

ホランダーは、信頼を積み重ねることで信頼資産が形成され、それが相手へのリーダーシップの作用を高めるという信頼蓄積理論を提唱している。

この理論から見れば、日常の挨拶、約束を守る姿勢、丁寧な説明、相手への敬意といった小さな行動の積み重ねが、連携を動かす土台になるといえる。

逆に、無愛想な態度や雑な対応は、不信負債として蓄積していく。

地域包括ケアシステムが推進される時代においては、理学療法、作業療法、言語聴覚療法の技術に長けているだけでは、十分なリハビリテーション効果は得られない。

なぜなら、リハビリテーション専門職が直接関わるサービス提供時間は、今後ますます限られていくからである。

限られた時間の中で成果を最大化するためには、本人への直接支援だけでなく、家族、介護職、看護職、その他の支援者を通じて支援の質を広げていく視点が不可欠となる。

そこに必要なのが、他職種から「この人の依頼なら動こう」と思われる信頼資産である。

したがって、リハビリ職種は専門的知識を磨くと同時に、多職種連携の源泉となる他職種に対する信頼資産を形成することが重要である。

どれほど理学療法、作業療法、言語聴覚療法の技術が高くても、挨拶、電話対応、書類作成、接遇、説明などを適切に行えないリハビリ職種は、地域包括ケアシステムの時代には選ばれにくくなる。

これからの時代に必要なのは、技術の高さだけではない。

周囲から信頼され、他者を動かし、支援の輪を広げられる実践者である。

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筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授

医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」 や 「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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