在宅リハビリテーションで問われるのは「個別リハビリテーション」より先にリスク管理である

筆者は全国各地で在宅リハビリテーションに関するコンサルティングを行い、大阪府内では実際に訪問リハビリテーションも提供している。

そのような活動の中で、しばしば危うさを感じる場面に出会う。

それは、利用者の全身状態や疾患リスクへの配慮が不十分なまま、動作分析、下肢筋力強化、歩行練習、活動訓練、参加支援といったリハビリテーションを進めようとする場面である。

もちろん、これらはいずれもリハビリテーションにおいて重要な視点である。

しかし、在宅療養の現場では、それ以前に優先して確認しなければならないことがある。

すなわち、利用者がいま安全に介入を受けられる状態にあるのかという点である。

近年、在宅療養利用者は高齢化と重症化が進んでいる。

呼吸不全、心不全、糖尿病、膠原病、消化器疾患、がんなど、生命に直結しうる疾患や病態を抱えながら生活している利用者は少なくない。

そのような利用者に対して、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士がまず担うべき役割は、運動や活動を追加することだけではない。

全身状態を把握し、異常の兆候を見逃さず、悪化を防ぐためのリスク管理とリスク緩和を実践することである。

 

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しかし、実際には、ADL向上や活動・参加の支援に関する知識や経験には熱心であっても、内部障害や急変リスクへの視点が弱いセラピストが少なくない。

その結果、利用者が呼吸苦や強い倦怠感、不安、疼痛などを抱え、「それどころではない」状態にあるにもかかわらず、なお運動療法を進めようとしてしまうことがある。

これは支援の優先順位を誤っていると言わざるを得ない。

当然ながら、そのような介入は利用者に受け入れられにくい。

利用者に拒否され、結果として「何もできなかった」となることも多い。

しかし、本質的な問題は、拒否されたことではない。

利用者の身体状況と生活状況を十分に評価せず、まず守るべき安全や安心を軽視したまま介入しようとした姿勢そのものにある。

リハビリテーションとは、単に身体機能や動作能力を高める営みではない。

利用者がその人らしく、できる限り安全に生活を継続できるよう支える営みである。

であるならば、人命に関わるリスクを軽視したまま成立するリハビリテーションなど、本来あり得ない。

今後、訪問リハビリテーションに携わるセラピストがさらに増えていくのであれば、なおさら重要なのは量の拡大ではなく質の保証である。

卒前・卒後教育の見直しはもちろん、セラピスト自身が「訓練をする人」から「生活と生命を守る専門職」へと認識を変えていくことが求められる。

在宅リハビリテーションに必要なのは、機能訓練の技術だけではない。まず利用者の命と生活を守る視点である。

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筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授

医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」 や 「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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