リハビリ職種の職域拡大は、今後の業界にとって極めて重要な課題の一つである。
しかし、職域拡大は必要性が高いにもかかわらず、実際には多くのハードルが存在し、容易に進むものではない。
そのハードルの一つが、リハビリ職種の働き方の選択肢の狭さである。
多くのリハビリ職種は、医療機関や介護事業所に所属し、利用者や患者に対して直接サービスを提供している。
いわば、目の前の対象者に向き合いながら価値を発揮する働き方である。
この働き方は、「ミクロ」の実践に分類することができる。
実は、働き方は大きく「ミクロ」「メゾ」「マクロ」の3つの階層で捉えることができる。
ミクロ
利用者や患者に対して一対一で向き合い、その人が抱える課題を解決するための支援を行う
例 一対一の臨床、個別リハビリテーション、カウンセリング
メゾ
中小規模の組織や部門を管理し、その組織が抱える課題を解決するための支援を行う
例 通所リハビリテーションの管理、急性期病棟におけるリハビリテーション部門の運営
マクロ
社会や地域に向き合い、地域全体や制度的課題の解決に向けた支援を行う
例 地域全体の認知症対策、地域リハビリテーション体制の構築、リハビリテーションインフラの拡大
このように整理すると、リハビリ職種の仕事は単なる個別支援にとどまらないことが分かる。
ミクロは直接的に対象者へ価値を届ける実践であり、メゾは組織を通じてより多くの対象者へ影響を与える実践である。
さらにマクロは、制度、地域、仕組みに働きかけることで、より広範囲に影響を及ぼす実践である。

組織論や社会システムの視点で考えると、個人への支援だけでは解決できない課題が数多く存在する。
なぜなら、利用者の生活課題の多くは、本人の身体機能だけではなく、組織運営、地域資源、制度設計、サービス供給体制といった構造的要因に左右されるからである。
つまり、職域拡大とは単に新しい仕事を増やすことではない。
リハビリ職種が、個人支援の専門職から、組織や地域の課題解決に関与できる専門職へと役割を広げていくことを意味するのである。
一般に、「ミクロ」から「メゾ」、さらに「マクロ」へと働き方の階層が上がるほど、社会的インパクトは大きくなりやすい。
また、関わる資源の規模が大きくなるため、成果に応じた報酬も大きくなりやすい。
一方で、「メゾ」や「マクロ」の領域では、臨床技術だけでは通用しない。
組織を動かすためのマネジメント、収支構造を捉える視点、制度や法規制を理解する力、多職種や行政と連携する力、さらには事業を構想し実装する力が求められる。
特に「マクロ」の領域では、前例のない取り組みや制度の狭間にある課題を扱うことも多く、グレーゾーンへの理解や慎重な判断が必要になる。
そのため、ビジネスモデルの構築は難しく、挑戦したくても踏み出せないリハビリ職種が多い。
しかも、養成校教育や卒後教育の多くは、依然としてミクロな実践能力の育成を中心としている。
もちろんそれ自体は重要であるが、メゾやマクロで必要となる経営、マネジメント、制度設計、地域戦略といった知識や技術を体系的に学ぶ機会は少ない。
この教育構造の偏りが、結果としてリハビリ職種の職域拡大を難しくしている。
つまり、メゾやマクロで活躍できる人材が育ちにくい。
育たないから挑戦する人が少ない。挑戦する人が少ないからモデルケースが蓄積されない。
モデルケースが少ないから、後に続く人も増えない。
このような悪循環が、リハビリ職種の職域拡大を停滞させているのである。
リハビリ職種の職域拡大を進めるためには、「ミクロ」の実践だけが仕事ではないことを、まず業界全体が認識しなければならない。
そして、リハビリ職種の働き方には、「メゾ」や「マクロ」という層があること、その層で活躍するためには臨床以外の知識と技術が必要であることを、より明確に共有していく必要がある。
個人に向き合う力は、リハビリ職種の原点である。だが、それだけでは職域は広がらない。
これからの時代に求められるのは、利用者を支えるだけでなく、組織を変え、地域を動かし、社会の仕組みに働きかけることのできるリハビリ職種である。
その視点を持つことこそが、職域拡大の第一歩なのである。
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筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授
医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」 や 「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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