診療報酬・介護報酬の単価には限界があり、医療法人や介護事業所の売上は伸びにくい構造にある。
こうした状況を背景として、近年は多角化による事業拡大を模索する医療法人や介護事業所が増えている。
実際、経済産業省も、介護需要の多様な受け皿を整備する観点から、介護保険外サービスの振興を重要な政策課題として位置づけている。
保険外ビジネスとは、文字通り医療保険・介護保険を用いないサービスである。
現在みられる保険外サービスには、地域のコミュニティーカフェ、トレーニングジム、カルチャースクール、家事代行、配食サービス、自費リハビリテーションなどがある。
経済産業省は、こうした公的保険外サービスについて、地域住民の多様な生活課題に対応する資源として期待を寄せており、生活支援、介護予防、家族介護者の負担軽減などの領域で、その充実を後押ししている。
これらの事業は、ゼロから立ち上げる場合もあるが、近年はフランチャイズに加盟して参入する例も増えている。
フランチャイズを活用すれば一定のコストはかかるものの、事業運営のノウハウやブランド、集客モデルを活用できるため、新規参入時のリスクを下げやすい。
多様なフランチャイズが登場している現在、医療機関や介護事業所が保険外ビジネスに参入することは、もはや特別なことではない。
また、厚生労働省も、高齢者の多様なニーズに対応する観点から、介護保険サービスと保険外サービスを柔軟に組み合わせて提供することの重要性を整理してきた。
つまり国は、保険内サービスだけで生活課題のすべてを支えることには限界があることを前提に、保険外サービスを地域包括ケアを補完する現実的な選択肢として位置づけているのである。
しかし、残念ながら、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士といったリハビリ職種による保険外サービスへの参入は、いまだ一般的とは言い難い。
現状では、保険外のリハビリテーション関連サービスの多くが企業主導で進められており、リハビリ職種自身が主体となって立ち上げる事業は決して多くない。
その背景には、資本力や経営知識、人材確保の難しさなど、現実的な課題があることは確かである。
しかし、根本には、リハビリ職種の側に起業や事業開発を自分事として捉える意識がまだ十分に育っていないという問題もあるのではないか。
専門職としての知識や技術を持ちながらも、それを社会の新しい需要に合わせて事業化する発想が乏しければ、保険外市場の主導権は企業側に握られ続けることになる。
リハビリテーションに関する保険外事業が企業主導で進めば、結果として増えるのは、企業に雇用されるリハビリ職種である。
もちろん、それ自体が悪いわけではない。
しかし、それだけでは、現場感覚や専門職としての価値観を反映したリハビリテーションを社会に広げていくことには限界がある。
リハビリ職種が自らの理念や専門性を事業として形にしなければ、提供されるサービスの方向性は、資本や市場論理に大きく左右されやすくなる。
だからこそ、リハビリ職種が真に社会に貢献していくためには、自ら保険外サービスを構想し、立ち上げ、育てていく視点が欠かせない。
経済産業省も、公的保険外サービスについて、社会的認知度の向上、信頼性確保、適切なサービス選択ができる環境づくりの必要性を示している。
これは裏を返せば、専門性の高い担い手が市場に参入し、質の高いサービスを提供していく余地が大きいことを意味する。
今後、医療・介護の保険制度だけで全てのニーズを支えることは、ますます難しくなる。
その中で、地域住民の生活課題に応え、本人や家族の選択肢を広げる保険外サービスの重要性は一段と高まっていくであろう。
だからこそ、リハビリ職種は「雇われる側」としてその流れを受け入れるだけではなく、「創る側」として保険外市場に関わる必要がある。
リハビリ職種自身による保険外サービスの実現こそが、専門性を社会に還元し、自らの職能の可能性を広げるうえで重要なのである。
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筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授
医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」 や 「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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