PTは、足元では一時的に過剰供給傾向にあるとみてよい。
厚生労働省が2019年に示した需給推計では、PT・OTの供給はすでに需要を上回っており、2040年頃には供給数が需要数の約1.5倍に達する見通しが示されている。
加えて、理学療法士の登録者数は2021年12月時点で19万2,276人に達しており、人数規模の大きさという点でも、PTは需給緩和の影響が先に表れやすい職種である。
このため、少なくとも2020年代後半から2030年前後にかけては、PT市場では「足りないから採る」という時代よりも、「人数はいるが、採用したい層が限られる」という時代に入っていくと考えるほうが実態に近い。
特に都市部や病院領域では、PTの絶対数が増えたことで、採用の論点は資格保有そのものから、経験領域、実践能力、教育力、連携力などへ移りやすくなる。
したがって、今後しばらくの労働市場では、PT全体の総数不足よりも、採用側が求める機能と応募側の供給内容がずれることのほうが、より大きな問題になっていく。
ただし、このことは「PT・OTは将来ずっと余り続ける」という意味ではない。
需要側をみれば、日本の65歳以上人口はなお高水準で推移し、国立社会保障・人口問題研究所の将来推計では、高齢者人口は2043年に3,953万人でピークを迎えるとされている。
つまり、リハビリ需要の母体となる高齢人口は急には縮まず、むしろ2030年代から2040年代前半までは、医療・介護・在宅を横断する複合ニーズが続くとみるべきである。
ここで重要なのは、今後の需給を左右するのが、単純な高齢者数だけではないという点である。
実際の現場では、訪問領域、認知症対応、地域包括ケア、多職種連携、マネジメント層など、負荷が高く専門性も求められる分野ほど人材確保が難しくなりやすい。
したがって、総論として供給過多が語られる局面であっても、各地域・各分野に入ってみれば、必要な役割を担える人材が足りないという不足感は十分に起こりうる。
今後の論点は、「セラピストが多いか少ないか」ではなく、「どの地域に、どの機能を持った人材がいるのか」に移っていくのである。
さらに、供給側には少子化の影響が時間差で表れてくる。
文部科学省は、18歳人口の減少に伴い、大学進学者数が2026年以降に減少局面へ入ると見込んでいる。これは、PT・OT養成校に流入する母集団そのものが、2026年以降は縮小方向に入ることを意味する。
もっとも、18歳人口が減るからといって、PT・OTの就業者数がすぐに減るわけではない。
養成には数年を要し、既存の有資格者ストックも大きいため、少子化の影響が新規供給数の鈍化として見え始めるのは、おおむね2029年から2031年頃とみるのが自然である。
さらに、現場の総数増加が明らかに鈍る時期はその少し後、2030年代前半から中盤にかけてと考えられる。
これは公的にその年を断定した推計があるわけではなく、2026年以降の進学者減少見通しと養成期間、既存ストックの厚みを踏まえた実務的な見立てである。
したがって、2025年から2030年代前半までは、PTを中心に過剰供給となりやすい。
一方で、2030年代に入るとPTの新規参入の伸びは鈍り、2040年前後に向かうにつれて、地域偏在や領域偏在の問題がより前面に出てくる可能性が高い。
特に地方、在宅分野、認知症対応、生活期リハビリ、管理職層では、総数の議論とは別に、不足感が強まる局面が出てきても不思議ではない。
つまり、今後のPT・OT市場は、「全体として余るか足りないか」を一言で語れる市場ではなくなる。
2020年代後半から2030年代前半は総量の増加が目立ちやすいが、その後は少子化に伴う新規供給の鈍化がじわじわ効き始め、2040年前後には総数はいても必要な場所には足りない”いうミスマッチがより鮮明になるとみるのが妥当である。
今後の採用難は、人数の絶対不足というより、地域・領域・役割ごとの偏在として表れる可能性が高い。
PT・OTの労働市場そのものが、総量調整の問題から、機能分化とミスマッチの問題へ移行していく、という構造変化である。
採用側にとって重要になるのは、資格者数の多寡ではなく、どの領域を担える人材が、どの地域に、どれだけ配置されているかである。
今後の需給を考えるうえでは、この視点で市場を捉える必要がある。
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筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授
医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」 や 「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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