2025年問題は、もはや「将来の懸念」ではなく、すでに現実として医療・介護業界に大きな影響を及ぼしている。
財政制約による社会保障費の抑制、急性期病床の削減、在宅医療や生活期の推進・・・。
これらの変化はリハビリ職種の働き方や役割を根底から揺るがし、業界全体に新しい秩序を突き付けている。
その中で深刻化しているのが、「ロールモデル不在」という問題である。
かつては、臨床現場で優れた成果を挙げるリハビリ職種や教育機関で学生を導く教員が、若手にとって自然なロールモデルであった。
彼らの姿を通して、専門性を高め、キャリアの方向性を描くことが比較的容易だったのである。
しかし、リハビリ職種を取り巻く環境は、かつてとは全く異なる。
養成校の乱立による人材の多様化、賃金水準の伸び悩み、ダイバーシティや働き方改革の浸透が進み、さらに市場ニーズは、急性期・回復期のスペシャリスト像から、地域や在宅で多職種連携をリードできるジェネラリスト像へと大きく変化している。
もはや「古典的なロールモデル」は形骸化し、現場でのキャリア指針にはなり得なくなっている。
キャリア理論的に見れば、これは「外的キャリア」から「内的キャリア」への転換を迫られている状況だと言える。
つまり、誰かの背中を追うのではなく、自らの価値観や社会的要請を基盤にした新しいキャリア像を主体的に設計しなければならない時代に入っているのだ。
これは単に個人の問題ではなく、組織にとっても人材の停滞を意味し、結果としてリハビリテーション部門全体の競争力低下につながりかねない。
2025年問題とは、言い換えれば「2025年リハビリ職種問題」である。今まさにこの瞬間、私たちは過去のモデルを捨て、新しいキャリア像を自らの手で創造するかどうかが問われている。
筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授
医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」 や 「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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