リハビリテーションとは「全人間的復権」である。
その人がその人らしく生きることを支え、その実現を後押しする概念がリハビリテーションであり、具体的にそれを提供する仕組みがリハビリテーションサービスである。
日本は世界でも稀な先進国として、物質的繁栄を享受している。
しかし、40~50年前の日本はまだ十分に豊かではなく、国民は経済的な繁栄こそ幸福の源と信じ、懸命に働き続けた。
その結果、先人たちの努力によって日本は小さな島国ながら世界第4位の経済大国へと成長し、生活水準も世界有数の高さを誇るようになった。
衣食住がこれほどまでに整った国は、世界的には少数派である。
こうした先進国においては、経済的な豊かさが当たり前となり、人々の幸福の基準は変化していく。
このような社会は「成熟社会」と呼ばれる。
成熟社会においては、人間関係を良好に保ちたい、心が通じ合う仲間が欲しい、自分の存在を認めてもらいたい、やりたいことに挑戦したいといった、人間にとってより高次の欲求が重要になっていく。

現在の日本は超高齢化社会に突入しており、高齢者の医療福祉政策が急速に進められている。
医療、看護、介護、そしてリハビリテーションと、さまざまな分野で対策が講じられているが、その中でもリハビリテーションは「全人間的復権」という理念に基づくため、幅広い領域で必要とされている。
かつての日本におけるリハビリテーションは、主に機能障害の改善やADL(日常生活動作)の回復を目的としていた。
これらは今もなお不可欠であり、全人間的復権のための基盤であることに変わりはない。
しかし成熟社会では、それに加えて承認欲求や自己実現といった高次の欲求を支援する役割も求められるようになっている。
時代が変われば、求められる「全人間的復権」の中身もまた変化する。
今日において理学療法士、作業療法士、言語聴覚士に求められるのは、機能障害やADLの回復を促す知識と技術だけでなく、患者や利用者のより高次の欲求や思いを支える力である。
そうした背景から生まれた地域包括ケアや地域リハビリテーションといった概念は、より質の高い専門職としての能力を強く求めている。
筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授
医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」 や 「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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