多くの医療機関や介護事業所は、経営そのものを目的化し、利益の有無に一喜一憂している現状がある。
しかし、本来、経営は目的ではなく手段に過ぎない。
医療機関や介護事業所の存在意義は、ミッションや理念の実現にこそあり、そのために経営という仕組みを活用しているのである。
にもかかわらず、利益至上主義が蔓延する組織では、従業員のモチベーションは低下し、働く場の魅力も失われ、社会的使命を見失う危険が高まる。
現代日本は、超高齢化や慢性疾患の増加、労働人口の減少など、先進国としての代償ともいえる深刻な社会課題を抱えている。
こうした課題の解決を目的に、医療機関や介護事業所の存在が制度的に認められているのであり、それは単なる収益事業ではない。
診療報酬や介護報酬の改定項目に一喜一憂し、収入増加のテクニックにのみ固執する経営者は、改定の背後にある社会的要請や課題を見落としている。
利益確保と社会課題解決の両立を意識することこそ、持続可能な医療・介護経営の鉄則である。
飽くなき利益追求は、人件費削減や過重労働を助長し、人材育成を軽視しやすい。
その結果、職員は疲弊し、離職率が高まり、経営資源の中核である「人材」が失われる。
医療や介護は人材の質に依存する事業であるため、人材資源の劣化は経営不振に直結する。
これは極めて単純な因果であるにもかかわらず、その危険性を理解しない経営層は少なくない。
さらに、社会保障財源は縮小傾向にあり、今後も医療・介護分野における資源配分は一層厳しくなる。
その中で事業所が生き残るためには、目先の利益ではなく、自らの事業の根本目的を絶えず確認し続けることが不可欠である。
社会に価値を提供する組織であることを忘れず、地域や利用者に信頼される事業運営を行うことが、結果として利益の確保にもつながる。
新しい視点として強調すべきは、「経営の目的=社会との共生」である。
医療機関や介護事業所は、地域社会における健康と生活を支えるインフラであり、単なるサービス業ではない。
したがって、経営の成否は「どれだけ利益を残したか」ではなく、「どれだけ社会的課題を解決し、人々の生活を支えたか」で測られるべきである。
その視点を忘れたとき、経営は単なる数字遊びと化し、存在意義を失うのである。
筆者
高木綾一

理学療法士
認定理学療法士(管理・運営)
三学会合同呼吸療法認定士
修士(学術/MA)(経営管理学/MBA)
国家資格キャリアコンサルタント
株式会社Work Shift代表取締役
関西医療大学 保健医療学部 客員准教授
医療・介護分野の経営戦略や人材育成に精通し、年間100回以上の講演を実施。
医療機関や介護事業所の経営支援を通じて、組織の成長と発展をサポートする。
著書には 「リハビリ職種のキャリア・デザイン」 や 「リハビリ職種のマネジメント」 があり、リハビリ職種のキャリア形成やマネジメントの実践的な知識を提供している。
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