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「自分が生きている社会が、怖くなるかも」 是枝裕和監督が『三度目の殺人』に込めた思い

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是枝裕和監督の最新作『三度目の殺人』が9月9日、公開された。

福山雅治演じる弁護士・重盛が、供述を二転三転させる殺人容疑者・三隅(役所広司)や被害者の遺族に翻弄され、真実を追い求めていく姿が描かれた同作。

「人は人を裁けるのか」——映画づくりにあたって是枝監督は、この命題を問い続けたという。真実はわからない。それでも、次の裁判に向かわなければいけない。その「宙吊り感」を共有したかったと語る。

ハフポスト日本版は是枝監督に、法廷サスペンスをテーマに選んだきっかけや、映画に込めた思いを聞いた。

法廷は真実が究明される場所ではない

——法廷劇を題材にしようと考えたきっかけを教えていただけますか。

『歩いても 歩いても』(2008年公開)を撮った後、累犯犯罪者の物語をやりたいと思ったことがそもそものスタートです。

人を殺して刑務所に入り、出所するけれど、また人を殺してしまうという犯罪者で。1度目は金目的で殺していて、2度目は人を好きになって殺人を犯してしまったという話でした。

2度目の殺人の場合は死刑の判決が下るケースが多いので、その殺人犯も死刑になる話を書こうと思い、ノートをつけ始めたんだけど。それは結局形にならず、頓挫したまま放置していました。

——『三度目の殺人』の中で登場する殺人犯・三隅も、2度殺人罪に問われているという点で同じですね。弁護士の方との食事会が、物語の着想にもなったと仰っていましたが。

2015年の夏ごろですね。弁護士さんと食事に行く機会があって。

よくテレビのニュースで、ある裁判の判決が出て控訴が決まり、「真実を究明する場所が地裁から高裁に場所を移します」といったレポートを耳にするじゃないですか。弁護士の方が、「あれには違和感がある」と話していて。なぜかと聞くと、「弁護士からすると、法廷は真実が究明される場所ではないんです」と言うんです。じゃあ何をする場所なのかと聞くと、「利害調整ですよね」と答えた。

——まさしく重盛ですね。重盛は真実を明らかにするよりも、裁判で勝つことにこだわる弁護士という役でした。

そうですね。その弁護士の方は、担当している案件が民事中心だったから、一層「利害調整」という捉え方をしていた背景もあるんだけれど。弁護士の立場からすると、法廷は真実を究明する場所ではないということは、ニュースを見ている人たちにはそこまで共有されていないじゃないですか。

そこから発想を得て、普段は法廷の場を「利害調整」だと考えている弁護士が今回ばかりは真実を知りたくなるという、いつもと逆のルートを辿る話を書いてみようと思いました。その時に弁護士が向き合う相手を、頓挫していた累犯の殺人犯にしようと思い、その2つが合わさって、今回のプロットが出来ました。

ドキュメンタリーを撮っている気持ちだった

——福山雅治さんとは『そして父になる』以来、2度目のタッグを組みました。福山さんの印象はいかがでしたか。

福山さん、素晴らしかったですよね。嫌な男、うまいんです。福山さんは。嫌な男と言っちゃうと少し浅いかもしれないけれど、人間が本質的に持っているダークな部分を、さらっと出せる。

言うことがコロコロ変わり、なにを考えているかわからない化け物を前にして、内心すごくざわざわしているんだけれど、それを表面には出さないようにしている。人間の内面にある矮小さみたいなものを表現するのがとてもうまいと思いました。

——三隅を演じた役所広司さんとの接見シーンは、すごく緊張感がありました。いい人なのか悪い人なのかわからない、三隅がすごく不気味に思えて。

役所さんは、化け物なので。正直言うと、まだ底が知れないです。なんであんなお芝居ができるのか、ちょっとわからないくらい。

役所さんが口にする台詞は僕が書いた脚本の中にあるはずなのに、撮っていると三隅という存在自体、僕が書いたものではなくなっていた気がしました。

完全に「他人」としてそこにいたというか、独立した存在になっていたので、ぞっとしましたね。ドキュメンタリーを撮っているみたいな気持ちになった。

——劇中には7回接見シーンがありますが、3回目の接見シーンで、三隅と重盛がガラス越しに手を合わせる場面があります。三隅が”あなたが考えていることがわかるから”と、重盛に手を重ねるようけしかける場面です。あのシーンでより一層、三隅が得体の知れない存在になりました。

あのシーンを入れることで「嘘っぽさ」みたいなものが出てしまったら台無しだから、うまくいかなかったらやめようと思っていたの。でも、役所さんは本当にうまくて、すごく自然に重盛を誘い込んでいた。

逃げ場がない、手を重ねざるを得ない瞬間を作っていて、こんなシーンでもここまでリアルにできるのか、と衝撃を覚えました。あの3回目の接見シーンは、それまで弁護士として三隅と対峙していた重盛が、初めて人間的に揺さぶられる場面なので、うまくいったことで分岐点にもなった。

——被害者の娘という物語の重要な役どころに、広瀬すずさんを起用されています。監督は子役に台本を渡さない撮り方をされていて、『海街diary』の時は当時15歳の広瀬さんに台本を渡さなかったそうですが、今回はどうでしたか?

渡しました。今回は台本を渡さずに頼むのがなかなか難しい役だったので。けれど、現場で台本を開いている姿は一度も見ませんでした。

——台本、渡されなかったんですね。台本を「渡す、渡さない」の境目はどこにあるのかというのが気になっていて。

台本を渡すと、文字から入りますよね。特に子どもだと、家族の前で練習したりもするので、現場では文字から覚えたものを話すという作業を再現してしまう。そうすると、文字を読む感じになる。それが一番嫌なんです。さらに、そこに感情を込める練習までしてきちゃうと、引けなくなる。

台本を渡さないというのは、「耳を使え」ということなんですよ。相手の台詞を聞く。そこが基本だと思うんです、お芝居って。

だから、「音」しか入れないやり方を子役にはするんです。それも、できれば初めて台詞を聞く時は、相手役から聞かせるようにしています。「文字を読む」じゃなくて、「聞いて話す」ことが基本だとわかればいいんです。それさえわかれば、そのあとは台本を開いてもいい。

広瀬すずさんは、『海街diary』の時から「聞く」ことができていました。だから最初から子役扱いはせず、台本ありかなしか、好きな方を選んでもらいました。音から聞いてやるお芝居も、即興でその場で考えてやるお芝居も、オーディションの時からあの子は全部できた。たいしたものだと思った記憶があります。

何から何まで、答えを出せるわけじゃない

——是枝監督は、「人は人を裁けるのか」問いながらこの映画を撮ったと仰っていました。作品が完成し、その答えは見つかりましたか?

答えはないんですよね。「答えのない問いを問う」というのが、命題だから。大事なのは、「どのくらいそれを問えたか」ということじゃないかな。それが作品の豊かさに繋がると思っています。

インタビューでよく「伝えたいメッセージは?」と聞かれるんだけれど、そこで語れてしまうメッセージって、きっと大したものではないんですよ。口で語れるようなメッセージは、すでに僕の意識にあるものだから。

本当に豊かな作品というのは、作り手側の意識にのぼらないところに、本当に伝えたいものがメッセージとして出てきてしまっていると思います。それは作品を観た人が気付くもので、僕には語れない。語れてしまったら、大したものじゃないと思うんです。

——観た側がどう受け止めたか、ということが全てだと…

そうですね。だけど、決して答えを煙に巻きたいわけでもないし、裁判は真実を追及する場ではなくて”利害調整”をする場だという前提で弁護士を描くことで、弁護士や今の司法システムを批判したいわけではありません。冤罪をなくそうと声高に訴える映画でもない。

要は、本当のところは、わからないわけです。三隅みたいな殺人犯はなかなかいないかもしれないけれど、もし実在する弁護士があのような案件を担当したとして、きっと判決の後にすごく釈然としないものが残ると思うんです。

なぜなら、「罪に問われている人を理解できる」という体で裁判は行われて、非常にわかりやすい部分だけを切り取って弁護もされる。そして最終的に、「死刑」だとか、必ずわかりやすい形として判決が出ますよね。

でも、真実はわからないんです。それでも次の裁判に向かわなければいけない。その宙吊り感というか、釈然としない感じを、映画を観た人に共有してもらうというのが、この作品の着地点だと思っていました。

——観ている側としても、「人は人を裁けるのか」という問いに対して、最後まではっきりした答えが出せませんでした。

僕は、曖昧さの中にむしろ本当があると思っている部分があります。そんなに全部、何から何まで答えが出るわけじゃないから、本来は。

例えば、何かを説明する時、喋りながら頭の中を整理して答えを見つけだすことがあるじゃない。喋っているうちに、なんとなく見えてくるという。

海外のメディアからインタビューを受けるとき、「最初にイエスかノーか言ってくれ」と通訳の人によく頼まれるんですけど。でなければ通訳できないと。ところが、「イエスかノーか」と聞かれると、どちらかはっきりわからないこともある。「白か黒か」最初に答えを求められる場面が、特に海外インタビューだと多いんですけど、今は日本でもそうなってきている気がします。

あとは、数字だよね。数値化されたものしか信用しない、評価を数値化するとことも多いでしょう。

——私たちのようなウェブメディアでも、その文脈があります。記事が読まれた数が、リアルタイムで出てくるので。

この映画に出てくる弁護士も裁判官も、こなした数で評価される。質はそこまで問われない。数なんです。

タイムリミットまでにちゃんとその事案が判決までいったかどうか、数値化されたもので人が評価されていくっていうのは、あの場所に限ったことではなくて、あらゆるところで起きている。

けれど、本来は、何から何まで全部答えを出せるわけじゃない。人間のやっていることだから。そして、答えがでないという曖昧さからどうしたって逃れられない人間が、ある種の絶対的な裁きを下さなければいけないから、司法というシステムがあるんです。

そして、私たちは社会の中に生きている責任として、そのシステムを受け入れているということに気付くべきだし、自覚的になるべきだと思っています。この作品を観てもらうと、自分が生きている社会とか、司法というものが、ちょっと怖くなるんじゃないかな。それが大事で、そこからがスタートだと思っています。

【作品情報】
『三度目の殺人』
9月9日(土)全国ロードショー
配給:東宝 ギャガ
監督・脚本・編集:是枝裕和
演:福山雅治 役所広司 広瀬すず他

【是枝裕和監督プロフィール】
1962年6月6日生まれ。東京都出身。早稲田大学卒業後、テレビマンユニオンに参加。14年に独立し制作者集団「分福」を立ち上げる。主なTV作品に、「しかし・・・」(91/CX/ギャラクシー賞優秀作品賞)、「もう一つの教育~伊那小学校春組の記録~」(91/CX/ATP賞優秀賞)などがある。95年、『幻の光』で監督デビューし、ヴェネツィア国際映画祭で金のオゼッラ賞を受賞。04年の『誰も知らない』では、主演を務めた柳楽優弥がカンヌ国際映画祭で最優秀男優賞を受賞。そのほか、『ワンダフルライフ』(98)、『花よりもなほ』(06)、『歩いても 歩いても』(08)、『空気人形』(09)、『奇跡』(11)等を手掛ける。近作には福山雅治主演、カンヌ国際映画祭審査員賞他、国内外の数々の賞に輝いた『そして父になる』(13)、カンヌ国際映画祭コンペティション部門に正式出品され、日本アカデミー賞最優秀作品賞、監督賞、撮影照明賞の4冠に輝いた『海街diary』、カンヌ国際映画祭、ある視点部門に正式出品された『海よりもまだ深く』(16)がある。

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Source: ハフィントンポスト

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著者紹介 著者一覧

genki

genki

 小学校元教諭。6年間、教壇に立つが日々追われる実務、長引く会議、閉塞的な職場に、次第に心が疲弊していく。やがてブラックな職場で自殺願望すら生まれ、このままでは死ぬ前に後悔する人生になってしまうと思い退職を決意。小学校の先生を辞め、自力で稼ぐと決断する。
 そして、幸運な事にビジネスの権威と出会う機会に恵まれ、直接指導を受ける機会を得る。この決断がたった1つの奇跡的な出会いを引き寄せ、その後は師に教わったビジネスノウハウをひたすら実行し続け会社の発展に至る。
 会社設立から3年後、デンマークで最高峰の働き方が実施されている企業を現地視察。管理職、社員が共に幸せになれる8つのエッセンスを欧州より持ち帰り、自身の会社を通して日本中に広めようと奮闘中。
 埼玉県さいたま市出身。既婚。早く子供が欲しく妊活真っ最中の1983年5月生まれ。趣味は空手、柔術、ウクレレ、食べること、バターコーヒー。好きな言葉は下座達観。

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